左目のテラァ

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「先生。具合が悪いので帰っていいですか?」 七井はいつものように言う。 少し違うのは、苦しんでいるところだろうか。 しかし、怒りで心に余裕のない幸助は気づかない。 「まだ話の途中だろう。ちゃんと私を見なさい」 職員室は彼らだけの居場所ではない。 別の作業をしていても気になるのだろう。 数名の教師が様子をうかがっている。 しかし、今の幸助には七井のことしか頭になかった。 人の話を最後まで聞かずに逃げるのは許さない。 うつむいて身体をよじる七井の肩を掴む。 そして、無理矢理、幸助自身へと身体ごと向ける。 息を荒くしていた幸助の口から、小さな悲鳴が漏もれる。 「先生。だから、言ったじゃないですか。帰っていいですか、と」 七井の左目は空洞のようにポッカリとあいている。 その中で小さな手のようなものがうねっている。 「七、井…」 「西山という名前の先生がいたのを覚えていますか?」 「……にしやま?」 うねるソレらから視線を逸らせずに、幸助は記憶を辿る。 「あの時は、具合が悪くなると口からテラァが現れていたんです」 「何だ、テラァとは」 七井が左目の中でうねるソレらを指差す。 質問の答えには、なっていない。 結局は正体がわからないのだから。 しかし、幸助は当たり前のように受け入れた。 これがテラァか。うねりながら数を増やしていくこれが。 「テラァは貪欲で気に入ったものは、自分のものにしたがるんです。本当に困ったものです」 困った様子など見せずに、七井は淡々と話す。
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