恋するジャック・オー・ランタン

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 ハロウィンだからといって仕事終わりに時間をかけて仮装なんてしてくる奴なんざ誰一人いなかったから持て囃された。   「明日から女の子になっちゃいなよ。可愛過ぎる。モテるよ、それ」  毎日のように小言を言われている課長から媚びるように言われて、こっちはこっちで新しい性癖が芽生えそう。  俺は場が白けなかったことに安堵して、気が緩くなっていた。 「女の子になったら優しくしてくれますかぁ?」 「するする」  エロ親父か。 「本当に上手く出来たもんだな」  俺をこんなにした元凶の先輩まで手放しで褒めてきた。鼻の穴を明かしてやったぜと俺は北叟笑んだ。 「その辺の女より全然可愛い」  こっちはカツラも被ってふわふわ髪で顔も半分隠して女に擬態している。  すっかりその気になった。  先輩の隣席でホステス嬢みたいに酒を注いだり、「いつも頼りにしてますぅ」と煽ててやったりした。  男の気持ちはわかるからスカートを捲られたときは笑って許した。膝を撫でられ、太腿の間に手を入れられたから、そこは止めた。  我ながら初めての女装の出来に自信を持って悦に入っていたこともあり、二人だけの二次会をしようと言われたときは、 「いいですよ。何処に連れて行ってくれるんですかぁ?」  男が欲しがるであろう台詞で返してやった。
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