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盂蘭盆にあわせ工場は3日間休みとなった。
郷里が遠い子は往復が大変なので
寮に居残り、タミも加わった。同郷同士でおしゃべりをする子もいたが、タミは訛りがわからなかったので、一人でいた。タミはごろごろと体を休めるだけで満足だった。
休みの日も一応食事は出たが、給料から引かれるらしい。
おかずはいつもと同じだったが、賄いのおばさんが塩おはぎをひとつ用意してつけてくれた。しかしタミは半分も喉を通らなかった。
実家の母の手作りの甘いおはぎを思い出したら胸が詰まったのであった。
隣の同僚に「食べかけだけど」と差し出すと、喜んで食べてくれた。
風呂は当然に沸かさないのだ。薪代を節約したいのだとタミはわかった。
あまりに暑く、汗ばんだので井戸の水で体を拭くことにした。
日は長く、夜7時でも明るかった。
タミは水を汲んだ。いつものように冷たい水に手ぬぐいを浸す。
ふと、もう一人の自分を見たくなり井戸を覗いた。
深くない井戸であるが。
手を伸ばせば届きそうなくらいに水面が上がってきていた。くっきりと自分の
いや、水の世界の少女の姿があった。神々しいくらいに青く輝いていた。
少女は少し寂しそうにそこにいた。
タミは「どうしたの」と聞くが、口をぱくぱくさせているだけだ。
手を差し入れると、揺らいで顔が泣いたようになった。
「泣いているの?」と聞くと、やはり口をぱくぱくさせている。
タミは耳を水面に近づけた。
すうっと、体を水が覆った。隅々まで水が包み込む。
冷たくて気持ちがいいね、タミがいうと、少女は冷たくて気持ちがいいね、と答えた。
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