1章. 真莉の告白と優菜の返事

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優菜と初めて会った旅行の日を思い出す。 響さんにくっついて、琴音を遠慮させて、ずいぶんわがままで空気を読めない女の子だと思った。 でも、2人だけにしてあげようと、優菜を連れ出してみれば、意外と可愛いところもあったっけ。 「でも…こんな複雑なことを言われるとは、思わなかったな…」 不思議なことを言われながらも、付き合うことにはなった。 ふいに奪われた初めてのキスは、俺の気持ちをより一層ハッキリさせたのに、優菜はまたね…と帰ってしまった。 「呆然としてるうちに帰るなんて反則だよ…」 鼻先をくすぐった花の香りと、唇の感触を思い出してため息をつく…これが恋に落ちる、ってか? でも、まるで自分を利用して、琴音への気持ちを忘れるよう言われた気がする。 響さんにも言った通り、確かに心の奥がチリっとしたことはあったけど、今はあいつの幸せを本気で願ってるだけ。 なにしろ、琴音のために新事業まで始めてしまう人だ。 琴音はすごい人に愛されて良かったと思うし、本当に心から、2人の幸せを願うばかり。 でも…優菜には、そんな俺の気持ちがイマイチ伝わっていないらしい。 俺の告白を嬉しいと言ってくれたんだから、優菜の響さんへの気持ちも一区切りだと受けとめたんだけど。 「あー…せめて帰したくなかったわー」 俺はゴロンと床に仰向けに横になって、次どう言って優菜を呼びだそうか、なんてことを考えていた。 ……… 「会いたいです…」 うまい口実なんて見つけられない俺が、直球で優菜を部屋に誘ったのは、週末の1日前。 「多分明日残業なんだ…」 「迎えに行く」 「…積極的だね」 「まだ理解してないこともあるから、気になって…」 それに…キスしてきたじゃん。 あれ、もう一回ちゃんとしたいんだけど。 「うん。じゃあ迎えに来てね」 約束できたことが嬉しくて、聞いたそばから会社の場所を忘れるという失態を犯した… ……… 「…は?なに言ってんの真莉ちゃん」 仕方なく琴音に電話して、さり気なく優菜の勤める会社を突き止めようとしたのに。 「優菜の勤め先の近くに用があるんだけど、優菜の会社ってどのへんだっけ?」 なんて聞いてしまえばバレバレ。 「優菜ちゃんの会社…響の会社とそんなに遠くない…。私も明日、一緒に行こっかな」  琴音はそのまま響さんの会社近くで帰りを待つという。 ……… 翌日会った琴音の格好を見て、思わず笑ってしまう。 黒の上下にサングラス、薄い黒のストールを頭からかぶって…その姿は、一昔前のアレだ。 「…浮気調査の婦人かよ…?」 「だって、見つかったら恥ずかしいし…」 「見つけてもらわないと困るだろ。内緒で行くんだから…!」 そっか…という琴音は、サッと頬を染めた。 その顔はふつーに可愛らしくて、優菜もいつかこんな表情をするのかなと、一瞬妄想してしまった。
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