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優菜と初めて会った旅行の日を思い出す。
響さんにくっついて、琴音を遠慮させて、ずいぶんわがままで空気を読めない女の子だと思った。
でも、2人だけにしてあげようと、優菜を連れ出してみれば、意外と可愛いところもあったっけ。
「でも…こんな複雑なことを言われるとは、思わなかったな…」
不思議なことを言われながらも、付き合うことにはなった。
ふいに奪われた初めてのキスは、俺の気持ちをより一層ハッキリさせたのに、優菜はまたね…と帰ってしまった。
「呆然としてるうちに帰るなんて反則だよ…」
鼻先をくすぐった花の香りと、唇の感触を思い出してため息をつく…これが恋に落ちる、ってか?
でも、まるで自分を利用して、琴音への気持ちを忘れるよう言われた気がする。
響さんにも言った通り、確かに心の奥がチリっとしたことはあったけど、今はあいつの幸せを本気で願ってるだけ。
なにしろ、琴音のために新事業まで始めてしまう人だ。
琴音はすごい人に愛されて良かったと思うし、本当に心から、2人の幸せを願うばかり。
でも…優菜には、そんな俺の気持ちがイマイチ伝わっていないらしい。
俺の告白を嬉しいと言ってくれたんだから、優菜の響さんへの気持ちも一区切りだと受けとめたんだけど。
「あー…せめて帰したくなかったわー」
俺はゴロンと床に仰向けに横になって、次どう言って優菜を呼びだそうか、なんてことを考えていた。
………
「会いたいです…」
うまい口実なんて見つけられない俺が、直球で優菜を部屋に誘ったのは、週末の1日前。
「多分明日残業なんだ…」
「迎えに行く」
「…積極的だね」
「まだ理解してないこともあるから、気になって…」
それに…キスしてきたじゃん。
あれ、もう一回ちゃんとしたいんだけど。
「うん。じゃあ迎えに来てね」
約束できたことが嬉しくて、聞いたそばから会社の場所を忘れるという失態を犯した…
………
「…は?なに言ってんの真莉ちゃん」
仕方なく琴音に電話して、さり気なく優菜の勤める会社を突き止めようとしたのに。
「優菜の勤め先の近くに用があるんだけど、優菜の会社ってどのへんだっけ?」
なんて聞いてしまえばバレバレ。
「優菜ちゃんの会社…響の会社とそんなに遠くない…。私も明日、一緒に行こっかな」
琴音はそのまま響さんの会社近くで帰りを待つという。
………
翌日会った琴音の格好を見て、思わず笑ってしまう。
黒の上下にサングラス、薄い黒のストールを頭からかぶって…その姿は、一昔前のアレだ。
「…浮気調査の婦人かよ…?」
「だって、見つかったら恥ずかしいし…」
「見つけてもらわないと困るだろ。内緒で行くんだから…!」
そっか…という琴音は、サッと頬を染めた。
その顔はふつーに可愛らしくて、優菜もいつかこんな表情をするのかなと、一瞬妄想してしまった。
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