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「じゃあそれ着るよ」
「えっ?!」
「なんで?チャーハン作って油はねしたら、そのまま捨てられるよ?」
「いや、でも」
「あ…大事に取っておきたいんだ…」
優菜はやれやれ…といった感じで、違うシャツを手にとってブラウスの上から着た。
そしてさっさとキッチンに行ってしまうので、俺の方が焦る…
未練なんてまったくないし、なんなら今の今まで完全に忘れてた。
ただ、優菜に取り出されたとき、ほのかに前カノの香水が香って…別れた時の顔を思い出しただけ…
「…優菜?」
我ながら、情けない声。
「いい匂いがする彼女だったんだね?」
嫉妬してるとは思えない、明るい調子で言う。
「…別に、未練なんて全然ないよ。ただ確かにここに泊まったことはあった。もう2年くらい前の話で、それ以来女の子は入ってない…あっ!琴音が響さんと揉めて、1回来たことあるけど、すぐに響さんが来て、秒で帰ったし…それからは…」
「わかったよ!」
見ればチャーハンが出来上がってて、小鍋にスープらしきものまでできてる…
優菜、料理上手なんだな…。
「あったかいうちに、食べよ?」
小首をかしげる優菜を見て、さっき浮かんだ前カノの顔は、綺麗に記憶の彼方に飛んでいった。
優しい味のチャーハンは優しい優菜の味がする。
女の子と食事をして、こんなにあったかい気持ちになるのは、初めてだ。
お風呂の準備をしながら、俺は洗い物を引き受ける。
そして、なんとなく落ち着かない気持ちになった。
優菜、泊まっていってくれるのかな。
だとしたら、いきなり一緒のベッドで寝るわけにはいかないよな。
優菜はこの部屋に、もうすでに何度も遊びに来ている。
でも夜更け前に帰したし、変なムードになったこともない。
それは、俺の気持ちが大きく関係していたと思うんだけど、それをいうなら…今の俺の気持ちは相当ヤバい。
ヤバいというのは…男特有の、何て言うんだ、これ。
「お風呂じゃんけん、する?…どっちが先に入るか」
「…はい?」
モヤモヤ考えながら洗い物をしていて、全然終わらない俺は、手を泡だらけにしたまま振り返る。
優菜はソファに寝そべって、腹這いになってこっちを見ていた。
…カーテンを引き忘れたベランダの窓に、優菜の後ろ姿が映っている、、。
「お風呂入ってから寝たいよ」
「あ、それはもう。先に入っていいよ」
泊まるつもりだと意外なところで確認できた。
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