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ほんの数グラムが、血液に混じるとマジックを起こす。飛んでいる!と思う。そしていつも、同じ光景を見る。
大人三人が両腕を広げても、まだ抱えきれないような大きな樹。木漏れ日が足元の苔を柔らかに照らしている。淡い緑の葉の繁る枝の下、大きなどっしりとした、茶色い革張りの本。紙は黄ばんでいて、一枚一枚が分厚い。きわめて古い本だとわかる。
そしてわたしの眼は、その傍らに座る少年に吸い寄せられる。くるくるとした黒い巻き毛が、褐色のなめらかな額に気まぐれに掛かる。悪戯っぽい大きな目と口。白い清潔な、ゆったりした布を身に纏っている。これはきっと天使だ、と思う。
彼はわたしを見る。すこし悲しげに微笑んで、何も言わない。わたしも言葉を持たない。何もせずに見つめ合っている。やがて現実世界がわたしを叩き起こす。それでおしまい。わたしはめでたく、ただの惨めなホームレス。
けれど今日は違った。
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