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とある朝、鈍い音を立てながらその建物の重い扉が開きました。
かたかたと軽やかな足音を鳴らしながら、また、周りをぐるりと見渡しながら入ってきた二人は、早々に言葉をぽつぽつと落としながら本棚を見ていきます。
やがて、片方の子供、大人びていた少女が、一冊の本を手に取りました。
慣れたような手つきで丁寧に埃を払い、恐る恐る中を覗きます。
やはり、おはなしは見えなかったようです。
少女が手元で可憐に埃を踊らせていると、もう片方の子供、まだ幼いと思われる少年が無邪気に近寄って来ました。
そして背伸びをして本を眺めた後、なんとも真っ直ぐな言葉を放ちました。
あれ?
なんで本なのにもじとかなにもないの?
少女が応えます。
なんでだろうね、あ、もしかしたら私たちに見えないだけかも知れないよ?
少年は首を傾げ、少しの間、小さな音たちだけがこの広い空間の主役になりました。
わかった!
いきなり、少年が輝かしい元気な雰囲気を、知らずのうちに振りまきながら喋ります。
ふたりでかこうよ!
もじでおはなし!
おはなしが、みんなが見えるように!
少女は静かに、いいね、と同意し、それぞれ秘密のところの秘密の本に秘密のおはなしをかこう、と提案しました。
少年はにこにこしながら大きく頷き、二人はそれぞれいくつかのおはなしをかきました。
体感ではちょっとの時間が経った頃、二人は忘れていた時間を自分の中に帰し、朝に開けた扉へと向かって歩いていました。
すると、少年がゆっくり足を止め、やがて完全に後ろを向きました。
すぐに一言。
ここ、やっぱりなんだかさみしいね。
ぼそっと呟いたはずの言葉は、建物の端にまで満ちてしまっていたようでした。
それに気付いた少年は慌てて、本たちはさみしくないかもしれないけど、でもね、ごめんね、と付け加えました。
そして、少年より先を歩いていた少女を追いかけて、しっかりとした足取りでとことこと走ります。
花を植えよう。
そうすればみんな寂しくないよ、きっと、ね。
少女がぱたりと足を止め、普段は柔らかく滑らかに動く口をはっきりと開けて喋りました。
落ち着いた声は変わりませんでしたが、ちょっぴり楽しそうな雰囲気でした。
いいね、それだね!
ねぇねぇ、なんのお花うえる?
少年は、ぴょこぴょこと跳び回るような声で話を広げます。
ぼくはね、オレンジのヒマワリ!
ぼくたちとおそろいで、二つにする!
と少年。
ヒマワリ、いいね。
そうだなぁ、それじゃあ私は、ヒナソウにしようかな。
ひまわりと同じように、君と私で一本ずつ、二本植えようか。
と少女。
二人は、また明日ここに来て種を蒔こう、そうして明日からここに通って、みんなには秘密の花を育てよう、と約束をしました。
そして、二人はまた、その建物に一つしかない扉を開けたのでした。
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