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かなり時間が経った。
苦しげな吐息。
……部屋が明転する。
「さきシャワー浴びるわ。ごめんな、汗臭かったやろ」
みだれた髪を気にしながら、想思が立ち上がる。ほそく、しかし相応にごつごつとした肌が、びっしょりと濡れて光っている。
「いーよ、別に……。いつもの、ことだし」
布団にあおむけに横たわったまま、ぐったりとして恋顧が応じた。身体がまだ、かすかに痙攣を繰り返していた。
「……」
どろりと濁った眼が、重く閉じそうになる。
それを目ざとく見つけ、想思が閉じかけた戸をふたたび、そっと開けた。音を立てないように、彼なりに気を遣っているつもりらしかった。
「ちゃんと、シャワー浴びて寝ろよお。授業中に下したらイヤやろ」
「るっせ……この、クソサド……」
「あはは」
八重歯を見せて笑い、こんどこそドアを、きっちりと閉める。少しの間のあと、水の流れ落ちる音ととんちんかんな鼻歌が、彼の耳にかすかに、届いてきた。
「はぁ。……のどかわいた」
口のなかが苦い。キャップを力なく横に放り、コーヒーを流し込む。
「まず……」
ぼそり、とつぶやく。
その目が、完全に閉じる。
寝息を立て始める彼を、いつのまにか上がってきた想思が、じっと、何も言わず見つめていた。
◇
目を開ける。
ふわり、と鼻をくすぐる、お揃いのシャンプーの匂い。
上体を起こし、時計を見る。深夜、三時。
とっぷりと濃ゆい色をした、真夜中の気配が、カーテンの隙間から滲みている。
隣にはいつものように、想思が寝ている。
のろのろとたたらを踏みながら、浴室へと足を運んだ。
温かい湯で全身を洗い流しながら、ぼんやりとした視線を、入口のほうに向ける。
こうして見ると、やっぱり背が高いな、と彼はまぬけな感想をいだきながら、物音で起き出してきた同居人を見つめる。
「シャワー浴びてんな。偉い偉い」
身体が濡れるのにもかまわず、入ってくる。
「上も着て寝ろ。風邪ひくぞ」
せめてもの仕返しのつもりで、恋顧は言った。
想思がに、と、唇を弓なりに曲げる。
「ふふ。かわええな。仕返しのつもりなん?」
これからシャンプーをしようと、前もって濡らしていた髪に手が置かれる。もう今日は終わり、というと、また明日な、と悪びれもせず言われたので、思わずうげえ、と声が出る。
「お前マジか? その元気、明日の朝出るときに分けてくれよ」
「え? しよってこと?」
「せん」
目を輝かせる想思を見ずに、返事をする。
「あ。そういえば」
とふいに、想思が言った。
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