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【3.王妃まで乗り気?】
アレリアが心配する中、アレリアのもとにはロスダン王子からの招待状やら贈り物やらが届くようになってきた。
アレリアはこんなに素っ気ない態度を取り続けているのにと気味が悪く思いながらも、招待はできるだけ断り、贈り物も謂れのないものはお返しするようにしていた。
そんなある日、ついにロスダン王子の母上、王妃の食事会の末席にアレリアは招待されてしまった。
ロスダン王子のお誘いは断れるが、王妃の方はアレリアの母の手前断りにくい。アレリアの母は数年前まで王妃の侍女頭をしていたのだった。
末席だしということで、仕方がなく控えめに出席したアレリアだったが、嫌な予感は的中し、
「あなたがカッチェス侯爵家のアレリアね。あなたと直接話をしたかったのよ、ロスダンのことで」
と王妃ににこやかに話しかけられることになってしまった。
この食事会には、王妃の仲の良い高位の貴婦人たちが席を連ね、どこに出ても恥ずかしくない一流の貴婦人たちが華やかで物々しい空気を作り出していた。
皆、王妃の言葉に遠慮気味にアレリアの方を見たが、内心飛び上がりたいくらい興味津々なのが透けて取れた。
アレリアは冷や汗をかいた。
こんなところで既成事実化されても困る。
こんな一にも礼儀、二にも礼儀な場面で不謹慎だが、「この娘はダメだ」と思わせるために、場違いにヘラヘラ笑ってやりすごそうか。
しかし、高位貴婦人が揃うこの場で?
やり過ごせても、私のイメージが壊滅的に悪くなるんじゃないだろうか。
とはいえ……もう社交界での評判なんて気にしている場合ではない。ロスダン王子の妃なんかになる方がよっぽど人生詰む気がする。
アレリアは覚悟を決めた。
ヘラヘラ笑顔を顔に貼り付ける。
「ロスダン王子様がどうかなさいましたかぁ? 私、まともにお話したことございませんよぉ」
食事会に参加していた貴婦人たちは、一斉にアレリアのこの場違いな甲高い声に眉を顰めた。
終わったな、とアレリアは分かってはいたが内心絶望した。
王妃もぎょっとしたに違いなかった。
しかし、それを顔には一ミリも出さずに、穏やかに微笑んでいる。
「アレリア、今日は美しいドレスを身に着けているのね。流行りのデザインね、ヘレン・ウィリアムズかしら。さすがロスダンの心を射止めるものはファッションも優れているのね」
「まあ~っ! 王妃様に褒めてもらっちゃったわぁ。でも、私なんかがロスダン王子様の目に留まることはありませんよぉ」
アレリアは大仰に手をぶんぶんと振って見せる。
「あら、ロスダンはあなたに夢中なのだそうよ。でも、あなたのそのヘアスタイルは地味でいけないわ。お化粧もね。気づいてない? あなた残念なことにお化粧が上手ではないようね。元はとてもよさそうなのに……。アレリア、今度私のサロンにいらっしゃい。あなたを見違えて差し上げるわ。格段に美しくなったあなたをロスダンに見せてやりたいわね」
王妃は悪気なくそんなことを言う。
アレリアは、げっと思った。
「まあ、王妃様っ! ありがたいお言葉ですけど、買いかぶり過ぎですぅ。それに別に美しくなりたいとも思ってませんし……」
化粧だって、わざとだ!
アレリアは半笑いの気味悪い笑顔を浮かべて、頭を掻いて見せた。
もう、他の高位貴婦人たちはアレリアの態度に呆れ果てていて、口もききたくないといった様子だった。
隣同士でアレリアの悪口を言ったり、無関係ですとばかりに明後日の方向を見たりしていた。
しかし王妃は根気強い。
「まあ。謙虚な方ね。でも、そんなのでどうやって王子の気を惹くの?」
「とんでもないです! 王子の気を惹きたいわけではないです!!」
アレリアはここばっかりはハキハキと大声で強く主張した。
アレリアは王妃にこれを言いに来たのだ。
他の招待客は、急にアレリアの調子が変わったのでぎょっとして、怯えたようにアレリアの方を眺めた。
「王子の気を惹きたいわけじゃない? 王子はあなたを妃候補にと言いましたよ。あなたは何? 王子の申し込みを断ると?」
王妃は理解に苦しむと言った顔をした。
アレリアはまたも舌足らずな場違い令嬢感を纏わせて、
「失礼ながらですけど、私より相応しい方がいっぱいいらっしゃるんでぇ。王妃様は、ロスダン王子様に相応しいと思う方いらっしゃいませんかぁ? 私より! 王妃様が望む方を推すべきだと思うんですぅ!」
とぐいっと身を乗り出した。
王妃はその気迫にたじたじとなりながらも、アレリアの言葉を押し退けた。
「何か勘違いしてらっしゃらない? ロスダンがあなたがいいといったから今日だってあなたを呼んだんですよ。母としてあの子の意見も尊重してやりたいと思っています、あなたがよほどでない限りは……」
そこまで言ってから、王妃は目の前のアレリアが「よほどのケース」に含まれるような気がしてきて、自信がなくなり言葉尻をすぼめた。
その瞬間にアレリアは、これだけはという思いを込めて叫んだ。
「ロスダン王子は別に私を愛していやしません!」
王妃はびくっとなった。
しかし、何がどうやらこれ以上は王妃は戸惑うばかりで、
「な、何を根拠に? あの子はあなたがいいと自分で言いましたよ……」
と言うのが精いっぱい。
そしてそれ以上はロスダン王子の話題には触れなかった。
しかし、王妃のその遠慮がちな態度から、アレリアは王妃がロスダン王子に何か小言のようなものは言いこそすれ、「あの娘はやめろ」と強く進言してくれる可能性は低いような気がして、だいぶがっかりしたのだった。
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