煙の行方

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雨が静かに降る夜、喫茶店の隅で男が一人、タバコを燻らせていた。 店内の明かりがぼんやりと反射し、彼の顔を薄暗く照らす。 静かなジャズが流れる中、カウンターの向こうで店主がコーヒーを淹れているが、男の存在には気づいていないようだった。 その男は長い間じっと座っていたが、ふいに視線を窓際に移す。 窓の外には、もう一人の影が立っていた。黒いコートに身を包み、深く帽子をかぶったその人物は、何かを待っているかのように店の中をじっと見つめている。 男はタバコを深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。煙は空中で渦を巻きながら、じわりと広がっていく。 その様子を見つめながら、彼はポケットから小さな紙切れを取り出した。そこには、ただ一言だけ、手書きで書かれていた。 「また会おう」 男はそれを眺め、わずかに口元を歪めた。そして、紙を灰皿の上に落とし、ゆっくりと火を近づける。紙は瞬く間に燃え上がり、灰へと変わっていく。 その瞬間、ドアが開いた。
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