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「カヤト…やっと見つけたぞ!」
外にいた男が、店内に向かって鋭い声を発した。
誰かを追い詰めたような、緊張感を帯びた声だ。
しかし、その言葉は、カウンターに座る男でもなく、コーヒーを淹れているマスターでもなかった。
店のどこを見渡しても、「カヤト」と呼ばれた者の姿は見当たらない。
男は目をぎらつかせ、タバコの煙が立ち込める喫茶店の中を見回した。
「煙の中に隠れても無駄だぞ、カヤト!」
彼の声は怒りと執念に満ち、店中に響き渡る。
どうやら彼は、誰かに裏切られたか、何か大きなものを奪われたのだろう。
肩は緊張で張り詰め、拳を強く握りしめていた。
マスターもカウンターに座っていた男も、その異様な光景に驚き、思わず黒いコートを着た男を見つめた。
だが、その視線を気にすることもなく、黒コートの男はなおも「カヤト」という名を執拗に呼び続ける。
数瞬後、マスターはため息をつき、穏やかな声で言った。
「落ち着きなさいな。カヤトっていうのは、君自身の名前じゃないか?タバコの煙の中にいるなんて、そんな馬鹿な話はないよ」
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