運命の書

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 こうして彼は八方手を尽くして書物を求めた。  そして、ついに――。  彼がそれを手にする日がやってきた。 「おお、おお! これがそうなのか……」  しわだらけの手に漆黒の書物はずしりと重かった。 「なんと神々しい。これがわしを救ってくれるのか……」  老爺が表紙に手をかけると、調査員たちが慌てて制した。 「お、お待ちください! もしそれがうわさ通りなら――!」  そばにいた秘書もテーブルをはさんで反対側に移動している。 「なにを恐れることがある。これを手に入れるために多くを犠牲にしてきたのだ。それにお前たちはこの書の魔力を信じておらぬのだろう? ならばためらう理由などないではないか」  水を得た魚のように活き活きとした老爺は、はやる気持ちを抑えられずに書を開いた。 「さあ、教えてくれ。わしはどうすれば長生きできる――」  そこに書かれていた内容に、彼は絶望した。  この瞬間、彼はあらゆる希望を打ち砕かれたのだ。  死を遠ざけることなど、人間には不可能だったのだ。  人に死をもたらす『命運の書』といううわさは、間違いではなかったのだ。 「わし、は…………」  意識が途切れ、イスから転げ落ちる老爺が最期に見たのは、 ”この書を開いたこと”  と記されたページだった。    終
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