運命の書

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 報告書に目を通した老爺は、聞く者を陰鬱な気分にさせるため息をついた。 「申し訳ございません……」  調査員たちはどれほどのお叱りを受けるのかと恐れたが、老爺にはもはやその気力もないようで、 「急いでくれ。わしには時間がないのだ」  かすれた声でそう言うのがやっとだった。 「必ず……必ず見つけてまいります……!!」  深々と頭を下げた彼らは逃げるように部屋を飛び出していった。  途端、押し寄せる静寂。  老爺はこの静けさが嫌いだった。  若い頃は喧騒が苦手だったのに、今では反対に物音ひとつしない時間が恐ろしい。  夜も、闇も、陰も!  文字どおり”光明”の見えない世界が。  終わりや死を連想させる、深い深い黒が不快でたまらない。  その恐怖から逃れるためか、老爺は秘書を呼び寄せた。 「調査員の数を増やしてくれ。報酬も増額しよう。なんとしてもあれを手に入れねばならん」 「かしこまりました」  有能な彼女はすぐに手配した。  そして気を悪くしないでほしいと前置きをして言った。 「会長、私にはそのような本が存在するとは思えません。どこかのオカルト好きの創作ではありませんか?」 「数多くの記録が残されておるのだ。彼らのこともつぶさに調べさせた。間違いはない」 「しかしそのような非現実なこと――」 「現実に起こっておる」  老爺の強い口調に秘書はそれ以上は言えず、お茶を差し出した。 「こんなことなら、もっと早くから取りかかっていればよかった……」  味のしないお茶を含み、彼は大息した。
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