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女中頭の背を追うように廊下を歩いていると、女中頭の足が静かに止まった。どうしたのかと思っていると、女中頭はゆっくりと振り返る。
「より子が休んでいる間に、より子の偉大さを女中たちはひしひしと実感したんですよ」
「え?」
「おかえりなさい」
「はい。しばらくの間、すみませんでした」
女中頭は廊下の端に置かれた花台に手を伸ばす。花瓶には庭の花が生けてあるが元気がない。水切りをすればもう少しだけ長く保てるだろうか。
「水に砂糖を溶かしていましたね」
「はい。少量の砂糖を入れてました」
「その知恵を知っているのはより子くらいで、すぐに花が駄目になるとみんなが首を傾げていましたよ」
「厠の紙を補充していたのもより子ですね」
「はい」
「毎朝確認してくれていたのですね。一枚もないと奥様に叱られてしまいました。それも三回もです」
「すみません。私がいなかったからですね」
「違いますよ。他の誰もが気付くことなく、確認を怠ったのです。より子は周りをよく見ていて感心します。これは教えてもそうそう出来ることではありません」
「そういうものでしょうか?」
「お嬢様も少し気が立っておられましたね。より子の気配りがお嬢様の精神を安定させていたようです」
「お嬢様にも似たようなことを言われました」
「より子のその、他人に近づきすぎない間合いも、きっと落ち着くのでしょうね。でも寄り添って欲しい時には静かに肩を並べる。その穏やかさが心地良いのでしょう」
「そう、なのでしょうか?」
女中頭は微笑むだけで、またゆっくりと歩き出した。そのままお嬢様の部屋まで連れて行かれると、待ち構えていたお嬢様によって、私はお嬢様の部屋に引っ張り込まれた。
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