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宣言通り、お嬢様は女学校帰りに寄ってくださった。
そして、何やら手には荷物がたくさんある。
「これはカステラでしょう。こっちは紅茶よ。そしてこれは苺ジャム」
それはお嬢様の好物だ。今からここで食べようというのかと思えば、そうではないらしい。
「より子がこれをいただくとき、わたくしのことを思い出してもらえるかと思って。わたくしより子に忘れられたくないのよ」
「必ず思い出してしまいますね」
わたしには勿体ないほどの高級品をお嬢様は惜しげもなく披露するので、見舞いの品としてわたしはありがたく受け取ることにした。お嬢様の気遣いを無下にすることなどできない。
「そうしてね。きっとわたくしのことを考えればより子は元気になると思うのよ」
「ありがとうございます」
それから、と言ってお嬢様はさらに一輪の花を出した。
「これは、……ある方から、なの。預かったの」
青い花だった。心臓が潰れそうなほど苦しくて痛くなる。
「……、そう、そうですか」
白紙で包装された花を、受け取らなければと思うのに腕が上がらない。
「あとで律子さんに花瓶をもらいましょうね」
お嬢様は花をご自分の後ろに置いた。私の視界から隠した。
「明日も来るわね」
「学校がありますよ。課題もいただいているのでしょう?」
「帰ったらきちんとやるわ。でも、より子の顔を見ないと、わたくし頑張れないの」
「まあ……」
「ふふふ。より子?」
「はい?」
「大好きよ! わたくしは誰よりもより子の味方だから」
お嬢様の言葉が胸の奥を包み込む。視界が歪んで、頬が濡れた。
「わたくしが笑えるのはより子のお蔭なのよ」
お嬢様が私を抱擁してくださる。
「みんな過干渉なの。でもより子は違ったわ。静かに控えて、でもわたくしのことと、周りのことはよく見ていたでしょう。困ったときにはすっと手を差し伸べてくれて……」
お嬢様は幼い日のことを思い出しているようだった。
「『あれをしましょう』『これを見てください』って、みんなわたくしの進む方向を決めたがっていたわ。わたくしと仲良くしなければ屋敷から追い出されるみたいな顔をして必死に愛想を振りまいているのが、わたくしにはとても苦痛だったの」
背中に回っているお嬢様の手に力が入る。
「でもより子だけはわたくしの視線を追ってくれたわ」
お嬢様は腕の力を緩めて私の顔の前に顔を戻すと花が咲くように笑った。
「今になって思うの。より子にはわたくしの感覚が伝わっているのではないかしらって」
「まさか」
「お茶が飲みたいと思うその時にきちんと持ってきてくれるし、少し甘いものが食べたいと思う時には小さく分けたお菓子を持ってきてくれるでしょう?」
「……でも、それは」
「そうなの! そうなのよ……。それにね、より子が実のお姉様だったらいいな、と思ったことは何度もあるわ」
「お嬢様……」
熱い息が二人の間に落ちる。
「お兄様は二人もいるのに、お姉様はいないのよ。どう思う?」
「そうですね、一人ずついらっしゃれば良かったですね」
「忠之お兄様と博之お兄様のどちらかがお姉様? あら、それは何だか嫌だわ。わたくし、やはりより子がお姉様だったら嬉しいのよ」
わたしの唇は震えて何も言葉が返せなかった。それを見てお嬢様が愛らしく微笑む。
「そろそろ帰る時間だわ。……まだより子とお喋りしたいのだけれど」
「今日はもう帰りませんと、夕食の時間に間に合いませんよ? 皆さまお待ちになってしまいます」
「そうね。……また明日。学校の帰りにきっと来るわ」
「嬉しいですが、ご無理のないようにしてくださいね」
「ええ。おやすみなさい、より子」
わたしは正座のまま頭を下げる。見送りは要らないと言って、お嬢様は階段を降りて言った。
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