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 それからもお嬢様は毎日女学校帰りにわたしの様子を確認しに来た。来るたびに何かを抱えている。    今日はビスケット。昨日は茶饅頭だった。その前は水羊羹を持ってきて、わたしと一緒におやつの時間を過ごすのが日課になっていた。  そしてお嬢様は毎日花瓶に花を一輪増やしていく。誰からとは言わないが、わたしはその花の色で送り主を確信していた。  青い花にはこんなにたくさんの種類があったのかと驚く。もちろん毎日違う花ではない。同じ花が二本、三本差されたものもある。三本あるうちの一本は枯れ始めていた。  わたしが重田家に来て一週間が過ぎていた。  足首はすっかり良くなっている。食事の支度も家事の手伝いも、気が紛れるから、とお願いして手伝わせてもらっていた。  台所も勝手に使っていいと律子さんからお許しをいただいている。  お嬢様からいただいた紅茶の茶葉を急須に入れて湯呑みに注ぐ。初めにこれでお出しした時はお嬢様は目を丸くした。 「ビスケットをいただきましたので、本日は紅茶です」 「あら、わたくしカップを持ってくるつもりだったのに忘れていましたわ! ふふふ、どうしましょう」  どうしましょうと言いながら、お嬢様は楽しんでいる。  紅茶をひと口飲んで、お嬢様は声を立てて笑った。 「嫌だわ、これ癖になってしまうわ!」 「飲めば同じです」 「そんなことないわよ、器は大切だわ! でも、ふふふ、これはこれで素敵よね」  お嬢様はビスケットを一枚食べて、そして窓の外を仰ぐ。 「別に決めつけなくてもいいのよね」  独り言のようでいて、わたしに語り掛けるような口調だった。 「洋食はナイフとフォークを使うように教えられたけれど、でもお箸を使って食べてもいいのよ。紅茶を湯呑に淹れてもいいし、味噌汁をスプーンで飲みたいのならそうすればいいの」  味噌汁はいかがなものかと思ったが、それは紅茶を湯呑に淹れるのと同列な気がして言葉を飲み込んだ。 「どうやって食べたいかは、本人の問題よね。他人がおかしいと思うことでも本人が受け入れているのなら構わないと思わない?」 「……そうですね。確かに本人の問題でしょうし、その家の価値観など、育った環境によって受け入れるかどうか違ってくるのではないでしょうか」  お嬢様が湯呑に口を付ける。さくらんぼ色の唇が艶やかに濡れた。 「より子、わたくしが言いたいことはね、より子が受け入れてくれるなら、倉本家の食卓の椅子に、より子の座る場所を作ってもいいということよ!」  お嬢様は「どうだ」と言わんばかりに胸を張った。 「わたしの、椅子を? 座る場所? とは、どういうことでしょうか?」  いや、お嬢様が言わんとしている意味はなんとなく理解した。でも理由が分からない。 「より子が受け入れてくれるのなら、お父様はより子の椅子を喜んで用意してくれるわ」 「旦那様が? どうして?」 「考えてみて。今日はこれで帰るわね」 「お嬢様!?」 「おやすみなさい、より子」  お嬢様はいつものように愛らしい微笑みを残して帰ってしまった。
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