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 あくる日。  お嬢様の手には何も荷物がなく、手土産にはお嬢様のとびきりの笑顔と朗報があった。 「とうとう捕まえたわ!」  開口一番そう告げると、お嬢様はわたしの身体を強く抱きしめる。  何を捕まえたのか、一瞬の間を置いてわたしは理解した。 「あの、……暴漢を?」 「ええそうよ。が頑張ってくださったの」 「忠之様たちが?」  妙に「お兄様たち」を強調された気がするが、お嬢様は笑顔で頷くだけだった。特に意味はなく自分の兄を敬愛しての強調だったのかもしれない。  ずっと外に出るのが恐ろしかったのだが、あの男たちが捕まったのなら久しぶりに外の空気を吸いたくなった。それに、そろそろお屋敷に戻り、お嬢様の御付きとして仕事に戻らなければならないだろう。  ただの使用人をここまで甘やかしてくれるのはきっと倉本家くらいなのだから。 「お嬢様」 「なあに?」 「わたしも一緒に帰ります」 「大丈夫なの? 無理しなくていいのよ?」 「いえ。お嬢様の側に戻りたいのです」 「より子! 大好きよ」 「お嬢様の愛をいただけるのは光栄ですが、これは孝介様に向けてくださいね」 「でもね。聞いてくれるより子? わたくし孝介様に甘えるのは下手なのだけど、より子に甘えるのは上手いみたいなのよ」 「まあ」 「より子も好いた殿方にはきちんと甘えられる?」 「ええっ!? それは……」 「好いた殿方に甘えられないのは、わたくしの見本となるが下手なせいね」 「申し訳ございません」 「より子」 「はい?」 「好いた殿方がいらっしゃるのね……」  それは質問というより、断定した物言いで、わたしの身体を抱きしめたお嬢様の手から寂しいという感情が伝わってきた。 「今日のお花はないのですって」  お嬢様の小さな呟きはわたしの肩に溶けていった。  花瓶から花びらが一枚床に落ちる。  わたしは少ない荷物をまとめて重田家を出た。  律子さんとお手伝いさんにも謝罪とお礼を述べたが、後日きちんと贈り物をしようと思っている。
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