44人が本棚に入れています
本棚に追加
19
女中頭とともに旦那様の執務室に入る。
「ああ、より子。……おかえり」
まるで我が子に向けるような深い愛情をたたえた表情で、旦那様は私を迎え入れてくれた。実の父親にも向けられたことのない眼差しに胸が詰まる。
旦那様の隣にいた奥様も同じ表情でこちらに来る。
「おかえりなさい」
奥様とは私の両肩に手を置いて、それから頬を撫でた。
「少し痩せたわね」
奥様は私の背中を押し、ソファに座るように促す。私は促されるままそこに腰を下ろした。
「あの、わたし……」
「何も言うな。良い良い。夕飯は食べたのか?」
「はい……。しばらくの間お休みをいただき申し訳ございませんでした。休んだ分まで――」
「そんなことは良い。たまには櫻子から離れて気を休めることも大事だろうから」
「いいえ、私は寂しかったです」
「そうか。櫻子も、今宵は嬉しかったのだろう。夕食の席ではよく笑っておったな」
お嬢様も私がいなくて寂しいと思っていたのだろうか。そうだったら嬉しいと思う。
「おほん、それでより子」
「はい」
「ええとだな、……その、悪い男たちを捕まえるのにだな……」
旦那様が言葉を選んでくださっているのが分かる。
「忠之様たちが捕まえてくださったと伺いました」
「そうなのだが、うちの男たち以外にも協力して、茂以上に動いてくれた者がいるのだ」
「そうなのですね。そのお方は?」
「明日、うちに来てくれるそうだ」
「私からお礼を申し上げてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。しかし無理はするでないぞ。さあ今日は下がりなさい。ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます。これからも、誠心誠意、お仕えすると誓います」
私が頭を下げると、真面目なんだから、と奥様に笑われてしまった。
女中頭と共に退室する。
最初のコメントを投稿しよう!