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お嬢様の寝台を整えるのはずっと私の仕事だった。しかしその寝台に上がるのは何年ぶりになるだろう。
私がここに来た時、お嬢様は四歳だった。その時はまだ奥様と一緒に寝ていらしたが、六歳になりご自分の部屋が与えられてから、私が添い寝をするようになったのだ。三年ほどは一緒に寝ていたのではなかっただろうか。
「あれから六年でしょうか?」
「一緒に寝ていたのはもう六年も前?」
「寂しい、怖いといって私の袖を握り締めていらっしゃいましたね」
「覚えていないわ」
顔を見合わせて私たちは微笑む。
「今の私たちではこの寝台も狭いですね」
「そうね。より子、落ちないでね?」
「お嬢様が蹴らないでくだされば、落ちませんよ」
「もう~」
そうな意地悪を言わないで、とお嬢様は口を尖らせた。
「……ねえ、より子?」
「はい」
「より子がお慕いするのは、どちらなの?」
その質問にドキッとしながら石鹸の爽やかな匂いを思い出してしまった。私の頭に浮かぶのはただお一人。しかしお嬢様の中には二人いるようだ。
「どちら……?」
「そうよ。最初は茂なのだとばかり思っていたわ。でも、もしかしたらより子のために毎日お花を届けてくださるあの方なのかしら、と思ったの」
「お花」
――青い花。――青い……青いガラス。
鼻の奥が鋭く痛む。
「より子」
「私は……。いいえ」
何に対しての否定なのか分からないとお嬢様は首を傾げる。
「さあ、明かりを落としましょう」
お嬢様に背中を向けてランプの火を消す。
そして指の腹でまなじりの露を掃った。
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