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 ――こ、近藤様?  左手には包帯が巻かれ、左の頬にはガーゼが貼られていた。  ――お怪我を!?  使用人一同が揃えて頭を下げる。私は一拍遅れながらも下を向いた。  ――主賓が近藤様?   屋敷の中から忠之様が出て来て、二人を出迎える。 「やあ、よく来てくれた。中に入ろう」 「ああ」  返事をしたのは孝介様で、近藤様の声は聞こえなかった。  頭を下げる使用人の前を忠之様、孝介様、近藤様が通っていく。もしかしたら私の前で近藤様が足を止めて下さるかもしれない。そうしたら私は何と言おう。そうだ、まずはお礼を言わなければ。お礼を言ってそれから――、そう考えているうちに近藤様の靴が私の前を流れて行った。  ――声を、……掛けて、いただけなかった?  使用人に声を掛けるはずなどないと分かっているのに、私は近藤様に声を掛けていただけるとそう慢心していたのだと、恥ずかしくなる。  ――そうよ、私は汚れた女だもの。そんな女に声を掛ける奇特なお方ではない。  冷水を浴びたかのように、頭の中が冷静になる。 「より子ちゃん? より子ちゃん?」 「ん?」  隣のチヨに肩を叩かれて顔を上げると、使用人たちは三々五々に散っていた。 「大丈夫です?」 「うん、大丈夫よ!」 「無理をしないでくださいね?」 「ええ、ありがとう。台所にいきましょうか」 「でも、満さんが手招きしてますよ?」  チヨが示すのは玄関で、そこから満が早く来い、と手を乱雑に振っていた。  背中に重石が乗ったかのように身体が重くなり、大広間に行くのが億劫になってしまった。  今は近藤様の顔が見れない。でも近藤様は主賓で、お礼は言わなくてはいけないと思う。しかし、なんだか近藤様と顔を合わせるのは気が重い。 「より子、どうした?」 「ごめん満、私……」 「気後れしてるのか?」 「そうみたい」 「それなら、酒も回りはじめただろう後半に顔を出す? そのように伝えておこうか?」 「出来るの?」 「旦那様も無理はするな、とおっしゃっていたのだろう?」  昨晩の旦那様の言葉を思い出して私は首肯する。 「白湯でももらって気分を落ち着けておいたらいいよ」 「ありがとう満」  満と年齢は一つしか違わないはずなのに、満がうんと大人に見えた。
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