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小説家【5分】ヒューマン
私は、小説家を志す。しがないアマの小説家——今日も賞に応募する為の小説を書く為に、公園に来ていた。
私は、執筆活動に行き詰まると気分転換に公園や川沿いに行き外で小説を書く事も多かった。
そして、この日は気温も穏やかで執筆をしているとウトウトして寝てしまった。
それから、どのぐらい経ったのだろう……私は、肌寒くなり目を覚ますと逃げる様に家に帰って行った。
それから家に着いた私は、ベットに潜り込むと、朝まで寝てしまった。
次の日、目を覚ました私は、いつも通り仕事に向かい。
仕事が終わり帰宅すると、書いた小説とデジタルメモの入ったカバンが無くなっている事に気づくと、昨日の夜から続く雨に絶望しながらも——私は、公園へと走った。
公園に着くと、昨日寝てしまったベンチの周りをくまなく探すがカバンは見つからない。
そして、うなだれながらも交番に行き警察に事情を話すと「届いていない」と、言われ。
落とし物の届けを書くと、数日待つ事にした。
私は、警察からの連絡を数日待ったが、警察官の「多分、戻って来ないと思います」と言う言葉を思い出して、私は一年かけて書いて来た小説を諦めた。
それから、私の心が乗り移ったかのように雨は降り続くと、何週間ぶりだろうか——晴れた日の帰り道、いつもの公園のベンチの上に見慣れたカバンが置いてあるのが分かった。
私は、走って駆け寄ると中身を確認する。
すると、中身は全て無事であった。
私は、ホッと溜め息を吐くとカバンを抱き締めて家へと走って帰った。
そして、家に着くと改めてカバンの中身を確認して、デジタルメモを開いてみると
私の書いた小説は消えて、見知らぬデータだけが一つだけあった。
私は、誰かのイタズラで書いて来た小説は全て削除されてしまい。
カックシと肩を落としたが……一つだけ入っていたデータの中を確認すると、私が書いたものではない小説が入っていたので——私は、何気なしにそれを読み始めると、時間も忘れて読みいってしまった。
そして、読み終わると何とも言えない爽快感が襲って来たが、所々の文章のが変なので——私は、誰のとも分からない小説に直しを入れた。
自分の作品が消えてしまったせいだろうか……私は、寝る間も惜しんで——取り憑かれる様に、その小説に直しを入れた。
そして、直し終えた。その日……
私は、安堵と解放感から気分が良くなりお酒を飲むと泥酔した。
何を思ったのだろうか……泥酔した私は、酔っ払った勢いでデータを小説のコンテストに送ってしまった。
しかも、私は——その事を全く覚えていなかった。
それから数ヶ月が経つと、私の知らない所で、小説は大賞に選ばれて、なんと私の名前が記載されていた。
それから私が気づいた頃には、もう引き返す事の出来ない所まで来ていたので、私は駄目だと分かっていながらも——後の事は、天に任せる事にした。
すると、その作品は書籍化されると大ヒット。
私は見事、小説家の仲間入りを果たした。
そして、五年が過ぎた頃には——私は、新人賞などの審査員を務めるようになっていた。
そんなある日の授賞式で、佳作で入賞した一人の中学生くらいの少年に話しかけられた。
「今回の話は、どうだった? 面白かった?」
私は、何度か応募している子なのかと思い——その少年に「面白かったよ」と、伝えると——少年は、笑顔で——その場を後にした。
その時は、気にならなかったが……それから数日後、私は——その子の事を思い出すと少し気になったので、その子の小説を読み返してみると——まだ荒削りの所はあるが、私の好みで言えば大賞作品より面白いとさえ思った。
そして、文章の使い方が五年前のアノ小説に似ていると思ったので、次の式典の時に聞いてみようと思ったが、少年は現れず。
その後、調べても所在すらつかめなかったが——必死に調べ関係者を片っ端から当たると、少年は、今——入院している事が分かった。
そして、私は——少年が入院する病院を訪ねた。
少年の病室に入ると、少年はベットに横たわり窓の外を眺めていた。
私が声をかけると少年は、少し驚きながらも嬉しそうだった。
そして、私は少年に一つ質問をした。
「五年前に、私のカバンを拾ってくれたのは君かい……?」
すると、少年からは謝罪の言葉が返って来た。
「ごめんなさい。すぐに返しに行こうと思ったんだけど、ずっと雨が降ってたから。
戻しに行くのが、遅くなっちゃって……」
「そんな事より、あの小説を書いたのは君なのか!?」
「それも、勝手に使っちゃってごめんなさい。
中にあった小説を読んでたらデータを消しちゃって、慌てて書き直したら読んだ小説が頭の中でぐちゃぐちゃになっちゃって……あんなストーリーになっちゃった」
「いや、謝らないといけないのは私の方だ。
君の書いた小説を勝手に使って——本当に、すまない」
しかし、少年は笑顔で答えてくれた。
「あの小説は、あなたのものです。
元は、僕が書いたかも知れませんが——あんなにも直しを入れられたら、アレはあなたの小説ですよ」
そう言って笑う少年は、あの小説を読んで——自分も小説家になりたいと言う夢を与えてくれた私に対して感謝を伝えて来た。
実は、彼は——今の医学では治す事の出来ない難病らしく。
医者には、15歳まで生きられないと告げられた。
そして、彼は——私の小説を知り。自分もこの世に生きた証を残そうと、小説家を目指し。佳作でも見事に賞に自分の名前を残す事が出来た事に、彼は——喜び満足していた。
しかし、私は納得できなかった。
「いやいや、待ってください。
私が受賞した小説を貴方が書いたものと、ちゃんと説明をすれば、貴方はもっと有名になれます」
「別に、僕は有名になりたい訳ではないので——何より……
自分の力だけで受賞した事の方がよほど嬉しいので、問題ないです。
それに僕は、あと半年しか生きられないので、そんな事をするくらいなら。
新しい小説をもう一本書いてみたい」
そう少年が望むので、私は「ならば、協力させてくれ!」と、必死に頼むと少年は喜んで了承してくれた。
それから私と彼の二人三脚での創作活動が始まった。
基本的には、彼が書いたものに——おかしな所が有れば、私が修正をするといった作業が主な仕事で、他にも動けない彼に変わりに、資料などを集めてくるのも私の仕事だ。
それから、数ヶ月が過ぎた頃……
彼の手は、動かなくなり——代わりに私が書くようになっていた。
それから、また一月が経つと彼は、言葉すらまともに話せなくなり。
両親でも聞き取れなくなっていたが、毎日共に過ごす私だけは、彼の言葉を理解していた。
そして、また一月が経つと——彼は、唸る事しか出来なくなっていたが、私は——書き続けた。
彼の思いを……
それから一月も経たないうちに、余命半年と言われた彼は、半年を待たずして——この世を去った。
完成した一つの小説だけを残して……
【運命の一冊】
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