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保育園の頃に絵本か何かで天使と悪魔の事を知ってから、私は悩みに遭遇するたびに何かと脳内で天使と悪魔を登場させてきた。
例えばご飯を食べる前にお菓子を食べたいと思えば、悪魔は「美味しいものは食べたい時に食べたほうがいいぜ」と誘ってくるし、天使は「ご飯が食べられなかったらどうするの?せっかく作ってくれたお母さんに申し訳ないよ」と説得してくる。……みたいな感じだ。
小さい事から大きい事まで、ちょくちょく天使と悪魔を脳内に呼び出していたら、小学5年生になった今では、とうとう彼らが自我を持ち出したのだ。
そして、天使なんかは、あまりにも私が悪魔の誘惑に負け続けると、反省会と称して説教してくるようになったのだ。
※※※※
「さて、反省会といこうか」
天使が腕組みをして私を見下ろしてくる。
私は肩を竦めて正座するしか無かった。
「莉子、今日も随分と悪魔に流されたな?」
「ヘイ、すみません」
「ヘイじゃない。返事はハイでしょ」
天使は、先生みたいな事を言ってくる。
「ちゃんと目覚まし時計が鳴ったらすぐに起きなきゃダメなのに、あと5分、って二度寝2回くらいしたよね?二度寝2回は二度寝じゃなくて三度寝だからね!」
「算数の話は苦手なので……」
「算数の話はしてません!」
「すみません、だって悪魔が、もう少し寝てても急げば間に合うよって囁いてきたもんで……」
「それで結果、遅刻ギリギリだっただろ?」
「ヘイ、その通りです」
「返事はハイでしょ!」
「ハイっ!」
私は素直に頷いた。天使はため息をつきながら続けた。
「その後も、朝マラソンの距離誤魔化したり、嫌いな給食残したり、宿題の前に漫画読んだり!」
「はい、とても悪魔の囁きが魅力的だったもんで……」
「俺は悲しい。俺の説得は魅力的じゃないってことなの?俺は悪魔より劣るの?」
天使は不貞腐れたように私を睨む。私は慌てて言った。
「そんな事ないよ!ほら、天使の説得で今日はちょっと多めにお手伝いしたし、つまみ食いも我慢したし!」
「まあ、そうだな」
少しだけ嬉しそうに、天使は頷いた。
「そうだ、莉子は今日たくさんお手伝いしたよな。お母さん喜んでただろう?つまみ食いもちゃんと我慢できたな。ちゃんと座って食べれば美味しいだろう」
「うん、そうだね」
「莉子は優しい子だし、やればできる子なんだ。俺はそれがわかっているんだよ。わかってるからこそ……悪魔に流される莉子が悔しい!」
「ごめんね」
私は素直に謝る。
天使に叱られているこの状況だけど、正直私はこの時間が好きだった。天使はいつでも私を心配してくれて、そしていつもちょっとだけ褒めてくれる。だからつい天使には甘えてしまうのだ。
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