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その日の夜、私はベットに転がってため息をついた。
結局あの後、ご機嫌を損ねた彩奈ちゃんにチクチクと嫌味を言われるし、彩奈ちゃんの友達からもちょっと無視されるし、とても疲れたのだ。
まあでも彩奈ちゃんと美香ちゃんがケンカするのはいつもの事だから、すぐに収まるだろう。
「でも疲れてんじゃねえか。黙って俺の言う事を信じればいいものを」
脳内で悪魔が口を尖らせている。
私はそんな悪魔を無視する。
天使は結局出てきてくれなかった。やっぱりもう出てきてくれないんだろか。
そう思って枕に顔を伏せた、その時だった。
脳内の隅の方に、見慣れた白い羽根が見えた。
「天使!天使なんでしょ!」
私は思わず叫ぶ。
私の呼びかけに、白い羽根、つまり天使がしぶしぶ姿を現した。
「……莉子……」
「もー。なんで今日出てきてくれなかったの?」
「昨日、しばらく姿を現さないって宣言したし。ニ、三日は出てこないつもりだったし」
「ニ、三日は長いよー」
私は口を尖らせた。
そんな私に、天使は少し不貞腐れたような顔で言った。
「でも、今日の昼休み、俺がいなくても莉子はちゃんと決めれただろ。悪魔に流されないで、美香に寄り添た。自分で決めることが出来てた」
「それは!」
私は慌てて言う。
「私が自分で決めたんじゃない!私は悪魔に流されそうだった。でも天使の言葉を思い出したの!昨日の天使との反省会を思い出して、それで決めたの」
「それでも、莉子は自分で決めた。何でそんな顔するんだよ。俺はそんな莉子が誇らしいんだぞ。一人前の証拠だ」
「じゃあ何でそんなに寂しそうな顔するの」
私は天使の顔をじっと見つめた。天使は恥ずかしそうに顔をそらす。
「まあ、俺は必要ないかなって思ったらやっぱりちょっとは……」
「必要だよ!」
私はすぐに言う。
「まだまだ悩む事いっぱいあるよ。今日だって、決めた後もこれでよかったのかなって心配だったもん。やっぱり天使がいてくれないと……!!」
「おいおい、俺は?」
空気を読まない悪魔が横槍を入れてきたので、私は仕方なく答える。
「まあ……いい事ばっかするのも疲れちゃうから、悪魔もいてもいいかな」
「随分と熱量がちがうじゃねえか。まあいいけど」
悪魔は案外あっさり納得してくれた。
そんな私と悪魔のやりとりを見て、天使は少し笑った。
「そうか、悪魔がついてるなら、俺もまだまだ莉子に必要だな」
「そうだよ!」
私は深く頷いた。
「なあ莉子、さっき、決めた後もこれでよかったのか心配になったって言ったよな」
天使はふとたずねる。私はコクンと首を振った。
「心配になっただろうけど……後悔はしたか?」
天使の質問に、私は少し考えた。
美香ちゃんの「ありがとう」が脳裏に浮かび、そして答えた。
「後悔は、してないかな」
「そうか。ならやっぱり、莉子は一人前だよ」
天使は嬉しそうに笑った。
「今日は反省会無しだな。ゆっくり休んで、明日は友達仲直してるといいな」
「逆に悪化してたりしてな」
「そんな事ないよ、きっと」
「うん」
「明日は二度寝、するなよ」
「五分ならしてもいいんじゃねえの?」
「ダメだ、ちゃんとすぐ起きなさい」
「うん」
「ちゃんと学校の朝マラソンもするんだぞ」
「したふりしてハアハア言っとけばいいだろう」
「ダメだ。体力づくりは大切だぞ」
「……ヘイ」
「返事はハイでしょ」
天使と悪魔、両方の小競り合いのような会話を聞きながら、私はまた始まる明日のために眠りにつく。
脳内の天使と悪魔が、少しずつ薄くなってきているのを、私はまだ知らない。
End
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