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……プルルルル、ガチャッ
『もしもし? ごめんね、みわ。芸能活動に忙しいのに、付き合わせちゃって』
「ううん、いいの。ちゃんと断ったよ、あのトオルって人。お母さんを慕っているみたいだね」
『……なら良かったわ。まだ利用できるってことね』
「でもお母さん、気をつけてよ。忠誠心がないからってひっきりなしにクビにしていったら、スタッフがいなくなっちゃうよ?」
『みわはそんなこと気にしなくていいの。国民の天使、水野和胡として……これまで通り日本中の男子を虜にしてよね』
「まあそうだけど。でもトオル君は絶対に見放したらダメ。トオル君には、お母さんしかいないんだもん」
『そうね。私が見放したら、捨て犬みたいになっちゃうもんね』
「もう、相変わらずのブラックジョーク、やめてよ」
『はいはい。それじゃあ切るわね。そろそろトオルが帰ってくるから』
……お母さんの言葉を最後に、電話は切れた。
私は観月みわ。芸名は『水野和胡』で、お母さんは『出張セラピー プルーフ』の女性オーナーをやっている。
お母さんはとても五十代には見えないほど綺麗で若々しい。
でも、私と違ってとても冷徹だ。
自分の思い通りに動かない人がいたら平気でクビにするし、最悪の場合人攫いに頼んで社会的に抹殺したりする。
その判断基準に、私が使われているのだ。
私のようなアイドルと付き合う機会が降ってきても、仕事を優先するのか……。
……今回のターゲットは、ちゃんとお母さんに忠誠心があったみたいで良かった。
これ以上お母さんが、悪人になってほしくないから……。
〈了〉
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