天使の願いごと

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 ……あれ、この人?  どこかで見たことがあるような……。  瞳の大きい丸顔な女の子。  長い睫毛はくるっと上にあがっており、小柄な体型が実に女の子らしい。 「ご利用いただきありがとうございます。プルーフのトオルです。みわ様でお間違えないでしょうか」 「はい、とにかく中へ」  玄関で自己紹介すると、みわ様は俺の手を引いた。黙って部屋の中に連れていく。  広めのダブルルームのようだ。 「注文通り……可愛い系のボーイが来てくれたね」  みわ様は赤い唇を綻ぼせ、俺の手を握ってきた。  高級そうなレザーのソファーに、二人並んで座る。 「トオル君だっけ? いくつ?」 「……二十歳です」 「じゃあ私の五つ年下か」  目線を上げた時に、薄暗い照明がその煌びやかな表情を映えさせた。  ……そこで、思い出した。 「……あ」  目を見開きながら、無意識に声を出してしまう。  その反応で、俺が何を思ったか……理解したみたいだ。 「あ、気づかれちゃった?」  今俺の隣で、白いバスローブを着て座っているのは……国民の天使と呼ばれている『水野和胡(みずのわこ)』だ。  みずのわこ……縮めて『みわ』という偽名を使っているのか。  それにしても、今をときめくアイドルグループ『とりゅっぷ』のメンバーであり、グループのアイコン的存在の水野和胡が、どうしてこんなところに……。 「内緒にしてよ? 私にも一応、イメージがあるから」 「はい。個人情報は絶対に漏らしません」 「良かった。友達からこのお店聞いてね、興味があったから呼んでみたの。そしたら大当たりだった」 「……俺でいいんですか?」  和胡はニヤケながら一度頷く。そして一言、「和胡って呼んで」と甘い声で発した。  まさか一流芸能人の相手をすることになるなんて……。  早速施術の準備を始める。 「今回は百分のコースでお間違えないでしょうか?」 「ええ。それで、何をしてくれるの?」 「あ……はい。当店はボディ系のオイルマッサージ店です」  和胡は「なーんだ」と言って口を尖らせた。  どうやらイメージしていたマッサージ店とは違ったようで、少し口惜しそう。  まあ、お客様によってはマッサージ以上のサービスを求めてくる人もいる。  俺はめんどくさいから、店のサービス以上に過激なことは要求されても断っていた。  ……だけど、今回は違う。  今まで見てきた女性の中で、ダントツで可愛い。  そして向こうにもその気がある。  俺は理性を抑えるのに必死だった。  いや、俺なんかが手を出していい存在じゃない。  和胡には数億円の価値がある。  野良犬同然の俺とは偉い違いだ。  真摯に接客して、太客のリピーター様にする……それが今日のミッションだ。 「トオル君の得意な部位はどこ?」 「え? あ、ああ……足ですかね」 「それじゃあ足だけお願い。今日は全身はしなくていいわ」  言われた通り、足のオイルマッサージだけ始める。  ベッドにタオルを引き、仰向けで寝てもらった。  とりあえず、無言のまま施術を進めていくことにする。
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