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ベッドの足元側に椅子を持っていき、施術しやすい位置を調整する。和胡にひと声かけて、バスローブの中から足元だけ露出させた。
無香料のホホバオイルを、まずは右足から。
優しくふくらはぎから足裏まで伸ばしていき、滑りやすくなったら圧を入れ始める。
きめ細かな肌の触り心地……激しいダンスを披露している割には、少ない筋肉量。
繊細な足元を、適度な力加減で刺激していった。
「トオル君、彼女はいないの?」
目を瞑りながら、口だけを動かす和胡。
まさか和胡から、そんなことを聞かれるなんて。
「残念ながら、いないんです」
「……そうなんだ。好きな人はいる?」
「それも、残念ながら」
「……じゃあ、ちょうど良かった」
……ピタッと、俺の手が止まる。
何がちょうど良いのか、その言葉の意味を確かめるため、視線を和胡の足から顔に移す。
「何がちょうど良いんですか?」
俺の質問が耳に入ると、和胡は腹筋を使って上半身を起こし、微笑を浮かべて見せてきた。
ゆっくりと、口が開く。
「私とさ、付き合ってくれない?」
「……はい!?」
思わず、足から手を離してしまった。
施術中は常に手を触れておかないといけないのに、驚きが勝ってしまったのだ。
だって今、俺……告白された? 国民の天使から……俺が?
和胡はクスリと笑いながら、言葉の意味を説明してくれる。
「もうね、トオル君って私のタイプそのものなの。何ていうか……そう! 子犬みたいで、守ってあげたい! みたいな?」
「……嬉しいですけど……芸能界って、もっとカッコイイ人たくさんいると思うのですが」
「うーん……まあそうなんだけど……なんかみんな、作られた人間なのよね。みんな染まっちゃってる感じがして」
「そ、そういうものなんですか……」
子犬みたい……まさに観月さんから言われた通りだ。
俺のセールスポイントらしいけど、まさかそれが和胡に刺さるとは……。
予想だにしていない展開に、狼狽えてしまう。
「ごめんね、困らせちゃったよね。とりあえず、マッサージの続きして」
「……あ、はい」
乾いてしまった手に潤いを与えるように、もう一度手のひらにオイルを加える。
そのまま和胡のふくらはぎに手を当て、呼吸を荒くさせながら刺激していった。
手の震えが和胡にも伝わっているのか、ふふふと小さく笑われてしまった。
揶揄われているのか……でも、あの表情は本気だと思われる。
普段は施術中に話しかけることはないけど、和胡には気になることを聞いてみたい……。
「とはいっても、恋愛禁止なんじゃないですか?」
「みんな隠れてやってるよ。それに、一般人の方がバレにくい」
「……は、ははは」
「トオル君は私のことどう思う? まだ会ったばかりだけど」
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