天使の願いごと

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 ……素直に、可愛いですと答えたいのは山々だ。  そりゃあ、水野和胡という国民の天使と付き合えたら……これ以上の幸福はない。  間違いなく、俺の人生はガラッと変わる。  でも……こんな展開現実としてあり得るのか? 俺、騙されているんじゃないか?  答えあぐねている俺を見て、和胡はさらに言葉を足してきた。 「嫌いではないでしょ? この見た目」 「も、もちろんです」 「じゃあ両想いだね」 「それはまだ……ちょっと早い気が」  はっきりとした好意を示さない俺にヤキモキしているのか、和胡はプクッと口に空気を溜め込んだ。  そんな顔されても……。 「良いでしょ? 私と付き合えるなんて、ほぼ不可能に近いんだよ? でも、一目惚れしちゃったの……トオル君に」 「一目惚れ……ですか?」 「そうそう! 私、決めてるの。恋愛は直感を信じるって。トオル君の顔を見た時、ビビッときたんだ」 「そこまで言ってくれるなんて……」  そんなこと言われたら、マッサージに集中なんてできっこない。  俺は力を抜かないようにだけ意識して、あとは和胡との会話に神経を注いでいた。  絶世の美女が、俺に一目惚れした? 違う世界線に突入したのか、俺の人生は……。  生まれた時から負け組で、いつ死んでもおかしくなかった俺に……天使が舞い降りてきた……。  いや、待て待て。  そんなことあり得ないんだ。  だって俺だぞ? 観月さんのもとで鍛えられたとはいえ、未だに表情も暗いだろうし……それに容姿だって、多く見積もったとしても中の上くらいだ。  酒でも飲んでるんじゃないか? 和胡からアルコールの匂いは一切しないけど……俺の鼻が利いていないだけの可能性もある。  酔って気分が良くなっているのかもしれない。  正常な思考が働いていないんじゃ……。 「私、本気だよ? 完全どシラフで言ってるからね?」  心を見透かされているようでドキッとする。  すぐに「本気なのか……」と声に出してしまった。  和胡は手をパチッと叩いて、もうひと押しする勢いで話し続ける。 「じゃあわかった! 私が養ってあげるから、お願い!」 「……え、ヒモってことですか?」 「そうそう! 好きな顔が毎日隣にあるって、それだけで莫大な価値だから!」  ますますわからなくなる。  何で俺なんかを養いたいんだ。  これは絶対騙されているに違いない。  ハニートラップってやつだ。  ……いや、どうして俺なんかにハニートラップを仕掛けるんだよ。  芸能人とかならまだしも、ただの一般人の俺に仕掛けることではないだろう。  でも、断ろう。わかんないけど、何か裏があるに違いない。 「すいません。やっぱり期待には応えられません。俺なんかよりもピッタリな人が、周りにたくさんいると思うので……」
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