天使の願いごと

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 ……俺の今の生きる目的は……観月さんだ。  今日初めて会った、和胡ではない。  いくら国民の天使から告白されたとしても、恩人を裏切るわけにはいかない。 「すいません、和胡さん。やっぱり俺……付き合えません」 「……嘘? 本当にいいの? こんなチャンス二度とないよ?」 「やめてください。これ以上揺さぶらないでください。俺には今……居場所があるんです」 「……ふーん、このお店が、そんなに大事なんだね」  俺は静かに首を縦に振る。  そうだ。何者でもなかった俺に生き方を教えてくれた観月さんに、そしてこの店以上に……大切なものなんてないんだ。  もう一度、今度は自信を持って頷いた。 「なーんだ、つまんないの」  和胡は不貞腐れるように、ベッドに敷いていたタオルで足元のオイルを拭いた。  俺はその様子を、ただただ黙って見届けることしかできなかった。 「もういいわよ。お金はテーブルの上に置いてあるから、部屋から出てって」 「……かしこまりました」  和胡が投げたタオルをキャッチして、急いで帰る支度をする。  オイルやタオル、そしてテーブルに置いてある三万円をバッグに入れて、気まずい空間から逃げるように部屋を出た。  まだ手にはオイルがビッシリと染みついている。  ロビーのトイレで手を洗ってから、深夜の港区へ。  太客のリピーター様を作るというミッションは失敗に終わったけど、何故だか清々しい気持ちで満ちていた。 「ったく、相変わらずさみぃな」  背筋を伸ばすような突風に舌打ちをしてから、事務所に戻ることにした。
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