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参
浮遊感に目を瞑って耐えていると、急に周囲が水で埋まる。否、水中に移動したのだ。唐突すぎる出来事に口を開けてしまい、呼吸が苦しくなる前に顔が水から抜け出す。
「……はあ、はあ」
蒼月は荒い呼吸をしながらも冬華の身体を地面へと持ち上げる。彼女が地に手をついて息を整えているうちに自らも湖から這い上がった。
「ここは、竜守村の湖……?」
冬華は見覚えのある景色にぽつりと呟く。黒曜の力で村に戻されたのだと悟った。そして、この感覚を味わうのは二度目だというのを思い出す。
そう、蒼月と初めて会ったのは、先程までいた龍神の住処だ。十の頃にこの湖に落ちて、その先で彼と出会った。今まで忘れていたのは黒曜の力のせいなのだろう。
「……これは」
焦ったような声に釣られて視線を動かすと、黒く変色した湖の姿があった。
「どういうこと?」
冬華の瞳は揺れる。見るからに可笑しな湖の様に動揺を隠せない。黒曜が苦しんでいたのはこの黒く染まった湖のせいなのではないか。
「こうもうまい具合につれるとはな」
草が踏み荒らされる音とともに三人の男が現れる。一人は見るからに華美な服を纏い、手に持った扇子で口元を隠していた。その左右に控える二人の男は弓矢を背負い、腰には刀を差している。
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