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「どちらが蒼の一族か分からぬな。どちらも殺してしまえ」
高貴な出と思われる男が命じると、控えていた男たちが刀に手を掛ける。冬華は身の危険を察知して、震える手で蒼月の深衣の裾を掴んだ。彼は彼女の耳元で一言囁くと、安心させるように笑みを浮かべてから立ち上がる。
「蒼の一族は私の方だ。彼女は村の人間、そなたらの敵ではない」
「ふん、忌々しい蒼の一族の話など聞くか。殺せ」
冬華は震える足を奮い立たせて木々が生い茂る方へと走る。
男のうち一人が彼女を追おうとするが蒼月に足払いを食らってよろけた。蒼月に斬りかかってきたもう一人には腹に拳を叩き込む。顔を歪めて動きを止める彼らを見ることなく、蒼月は冬華の後を追った。武器も持たない己が勝つ術はない。
少しすると、よろよろとそれでも前へと走る彼女の姿を目に留める。
「華」
隣に並んで小さな声で呼んだ。冬華は足を止めずに蒼月を見遣る。彼の無事を確認して少しだけ表情が和らいだ。
「君は何処かに隠れていて。あいつらは私が引き付けるから」
「それは」
「華」
強い意志の籠った声音に渋々頷いた。足手纏いなのは分かっている。冬華は近くにあった高く生い茂る草木の中に隠れた。
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