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  ***  気を失ったことで腕に掛かる重みが増し、畳に落としそうになるのを寸でのところで阻止する。そして、自分の方へ引き寄せてしっかりと支えた。 「こ、黒曜(こくよう)、これどうしたら良いの」  狐のお面から零れた声は震えていた。それでも冬華を抱える腕は離さず、瞳は蒼と名乗った青年の方へ向けられている。 「はあ、蒼月(そうげつ)。そんなに情けない声出すな」 「だ、だって」  蒼だが黒曜だか分からない青年が立ち上がって室内へと足を踏み入れる。狐のお面を被った蒼月の元まで辿り着くと、倒れた几帳を持ち上げて少し離れた場所に置いた。そして、蒼月の近くに胡坐をかいて座る。 「いつまで抱えているつもりだ」 「あ、え、えっと」  蒼月はきょろきょろと視線を動かし、自分が座っている茵が一番柔らかそうだと気付く。冬華を起こさないように慎重に身体を動かして茵に寝かせた。手元から彼女の温もりが消えたことで心は平穏を取り戻す。 「そなた、そんなので本当にそれと夫婦になれるのか」 「冬華は龍神に嫁いできたから」  狐のお面のせいで表情こそ窺えないが、声音からして憐れみを抱いているのだろう。冬華の髪を優しく梳く手つきは明らかに情があるとしか見えない。龍神に嫁ぐ、その行為が何も意味を成さないことを蒼月とて理解しているだろうに、はぐらかす彼に黒曜は眉間に皺を寄せる。 「そなたがそれで構わんなら良い。だが、それの前では蒼と呼ぶのを忘れるな」 「分かっているよ」  黒曜は相変わらず不器用なやつだと蒼月を眺める。それでも縁は繋がった。この先、幸を呼ぶか、不幸を呼ぶかは彼ら次第。己はただ見守るだけだ。
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