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「華!」  月が叫ぶ声が聞こえる。冬華は砂利に叩きつけられると覚悟して目を瞑るも、何故か横たわるように地面に落ちた。起き上がる際に地面に手をつけば砂利が手の平に食い込み、小さな痛みを与える。 「大丈夫!」  遣戸が壊れそうな勢いで開けられ、月が庭園へと足を踏み出した時、背後から色黒の手が伸びて阻止する。 「蒼月、あれはそなたを殺そうとしたのだぞ。何故情をかける」 「違うよ、黒曜。華は私を殺そうとしたのではなく、龍神を手に掛けようとしたのだろう」  冬華は目の前で繰り広げられる口論を見守ることしかできない。蒼月と黒曜。それが彼らの真の名なのだろうか。月が蒼月で、蒼が黒曜。そして黒曜の正体は龍。一気に増えた情報に頭が混乱しそうである。 「華、こっちにおいで」  優しい声音が耳を通り、我に返ると蒼月しかいなくなっていた。導かれるまま室に入り、向かい合わせで座る。 「騙してごめん。言い訳、聞いてくれる?」  困ったように眉を寄せる蒼月に首を縦に振って先を促した。今必要なのはお互いの話をし合うことだというのは冬華にも分かる。 「竜守村は二十年に一度、龍神に嫁ぐ贄を出すだろう」 「え? 龍神に嫁ぐ?」  目が点になる。まさか初めから知らない話が飛び出てくるなど想像していなかった。竜守村は龍神の住処があることすら断定できていないというのに、龍神に嫁ぐという考えは生まれるはずがない。贄は贄、龍神に命を捧ぐものだとされている。 「もしかして村にはそう伝わってないの?」 「はい。ただ命を捧げる生贄だと言われてます」  二人の間に沈黙が走る。そこから話が食い違っているとは蒼月とて思ってもいなかったのだろう。
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