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「その、此方としては龍神に嫁ぐ者として贄を貰っているんだ。けど、本当は龍神に嫁ぐんじゃなくて、蒼の一族に嫁ぐんだ」 「……蒼の一族」  聞いたことのない名に冬華は首を傾げる。だが、一つだけ分かったのは蒼月が蒼の一族で、龍神に嫁ぐという贄の冬華を騙したのは蒼の一族であることを隠すため。竜守村は周りを山で囲われた外界から閉ざされた地である故に、他所の村との交流もなく村の外の知識は入って来ない。そのため蒼の一族というものが何を示すのか理解できずにいた。 「嗚呼、知らないのか。蒼の一族は百年ほど前に滅んだ、嘗て帝であった一族だ」  ほんの少し話が見えてきた気がする。外界から閉ざされているはずの村に、数日前に帝の使いを名乗る者が訪ねてきたのだ。そして、村の者ですら龍神の住処があるという確信はなかったのに、帝の使いは龍神を殺せと命じた。 「あ、あの、私の村に……竜守村に、数日前に帝の使い者が来ました。その者は龍神様を手に掛けなければ村の者を皆殺しにすると脅してきました」  蒼月が目を見開く。彼が驚きのあまり言葉を失っているうちに言葉を続けた。 「私たちは龍神様が湖に住まうとは言い伝えられていますが、本当に住処があるのは知りません。なので、今までどおり贄を捧げて龍神様に守ってもらおうと思ったのです。けれど、もし本当に龍神様の住処があるのなら」 「手に掛けるしかない、と」  言葉に詰まっていると蒼月から先を言われ、首を縦に振って肯定した。
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