Dull Blue 2

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Dull Blue 2

**  ローンの金額が増えていったけれど、それに比例して仕事が入ってくるわけではなかった。いつものバイトに加えて、空いた時間に急に入れるバイトも増やした。ローンの金額はそうしなければ支払えないくらいになっていた。今までは連絡をすれば日払いのバイト代が入るまで待ってもらえていた。だがある日急に吉村さんが電話に出た。 「そういうの困るんだよねえ。期日までに払えない人には仕事は回せないよ。働いてればそれくらい分かるよね?」  私の頭は真っ白になった。仕事を回してもらえないのは困る。これまではただの通行人の役ばかりだったけど、やっと台詞のあるオーディションを受けさせてもらえるようになってきたのだ。ここで止まってしまっては何のための演技レッスンだったのか。私は慌てて次からは絶対に遅れないようにすると必死でお願いした。 「じゃあ今回だけね。次回遅れたら三ヶ月まともに支払えない限り仕事は回せないから」  そう冷ややかに言われ電話を切られた。  私は部屋の中に座ったまま動けないでいた。どうしよう。今のバイトをすぐに辞めるわけにはいかない。生活が出来なくなる。他に何か割のいいバイトをやらなければ。パパ活という言葉が頭をよぎった。パパ活女子のSNSを眺めた。だが自分がパパ活に向いているようには思えなかった。本当にお金が稼げるかどうかだって分からない。ふいに〈高収入アルバイト〉という文字が目に入った。 『隙間時間でできる! 簡単なお仕事です 怪しいお仕事ではありません』そしてDMで連絡して欲しいと書かれていた。隙間時間で出来るのもありがたいし、怪しい仕事ではないとちゃんと書かれている。DMくらい送ってみてもいいかと思った。次の瞬間にはDMを開き、いったいどのくらいの時給がもらえるのかと尋ねていた。  返信はすぐにきた。時給ではなくて日給が五万円ということだった。ただいつでも入れるわけじゃないので詳しい日程はLINEで説明したいということだった。五万。一日でそれだけもらえればローンは払えると思った。向こうが送ってきたQRコードにすぐにアクセスしてLINEに友だち追加する。向こうはいくつかの日程を確認してきて、私はとりあえずどの日でも可能だと返事をした。するとシグナルという無料アプリをダウンロードして欲しいと返ってきた。 『登録には個人情報を入力してもらわなければなりません。そのためにより安全性の高いアプリのほうをお勧めします。シグナルは警察でも使用されているので安心ですよ』  怪しい仕事だったらわざわざ警察が使ってるアプリを使えというだろうか。私はシグナルのアプリをダウンロードした。そして送られてきたフォームに従って必要項目を入力していく。身分証明証はマイナンバーカードでいいというのでそれを使った。仕事内容は指定されたところに出向いて書類の入った封筒を受け取ってきて欲しいというものだった。確かに簡単な仕事だ。だがそれで五万円というお金は本当に貰えるのだろうか。 『大切な書類を受け取ってそれを取引先に渡すまで、必ず時間通りにおこなって下さい。それからきちんとした格好で行って下さい(スーツ推奨)』  大事な書類だから高額のバイトなのだろうと私は納得した。急いでお金が必要だったので一番早い日程である四日後を希望した。
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