憎悪を育てる

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 ダイニングテーブルの上から、皿やグラスが全て落下した。  床に落ちたそれらは割れて砕けて、美味しそうに盛り付けてあった惣菜は、一瞬で生ごみと名前を変える。 「高校に行かせるだあ? いつも言っているだろう。この仕事には学問なんて必要ねえんだ!」  生ごみを作った主は、テーブル上をなぎ払った腕で母のえり首をつかむ。 「俺をみてみろ。高校中退しても、立派に事業を成功させてるじゃねえか?」  母の顔に自分の顔を近づけ、アイツは(わめ)いた。  母は消え入るような声で 「……でも、先生も成績学年1番の俊夫のことを思って、進学を勧めているんです……」 「フン! なら仕方がない。俊夫! 高校に行きてえのなら、ウチの店で働きながらにしな。それなら、公立高校くらいなら行かせてやる」  アイツは母の胸ぐらをつかんだ腕を(ゆる)めた。 「だがな俊夫、給料なんかあると思うな。お前は俺の跡取りとして、働くんだ。いわば修行だな。高校の学費を出してやるんだ、ありがたく思いな!」  僕につり上がった一重の目を向け、言葉を吐き捨てると、「晩飯が台無しになっちまったじゃねえか? お前ら、今日は飯抜きな。胸クソ悪い、俺は出てくる!」と、自分だけ食事をしに家を出ていった。 「ごめんよ、俊夫…… 我慢しておくれ」  母は泣きながら、床に落ちた夕飯の残骸を片付ける。  僕は心の中のアイツへの憎悪が、次第に(ふく)れ上がっていった。  アイツの暴力に(おび)えて暮らすようになってから、5年が過ぎた。  僕の中に芽生えたアイツへの憎悪は、僕の成長とともに今や大樹のように育っている。
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