憎悪を育てる

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 アイツが母と再婚したのは、僕が9歳のとき。  高校を中退したアイツは、地元でカツアゲ、暴行、暴走などの半グレ集団のアタマだったと聞く。  アイツは、大手ラーメンチェーンで働いていた不良仲間の木村と、そのラーメンチェーンのフランチャイズを買い取り、地元でラーメン屋を始めた。  実際は、ひとり息子の行く末を心配した両親が、なけなしの退職金と貯えで、不良息子に買い与えたものだが……  予想に反して、アイツの店は繁盛した。  地元の不良達の中ではトップだったアイツの店は、後輩達を半ば無料に近い給料で使い、それ以外の後輩達には強制的に食べに来させて利益を上げていった。  元々、人気のあるラーメン店のフランチャイズ、人件費もゼロに近い店舗は、アイツが日々遊び歩いていても繁盛して2店舗、3店舗と急速に発展する。  アイツが20代後半になり、ラーメンチェーンを会社として登記した頃、若くして夫を亡くした母と知り合った。  20代で学歴も職技能も無かった母は、僕を育てるため、昼は弁当屋のパート、夜はスナックで働いた。  若くして死んだ父、同じく早逝(そうせい)した父の両親が家と土地を残しており住むところには困らなかったが、若い父には死亡保険もかけておらず、シングルマザーの母としては生活費や養育費、固定資産税など全ては、国の支給する寡婦(かふ)手当では(まかな)いきれなかった。  そのような状況の中、母はアイツと知り合ったのだという。  母の勤めるスナックに訪れたアイツは、1児の親というには若く美しい母を見初め口説いた。  母も、人気フランチャイズ店を多数経営するという、アイツの粉飾(ふんしょく)と女性を口説くときは常に笑顔の表面(おもてづら)にだまされ、好意を持つようなる。  そして母は、アイツと再婚をしてしまった。  
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