憎悪を育てる

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 何をしても抵抗しない母と、まだ子どもで抵抗できない僕をみて、アイツの家庭内暴力は日増しにエスカレートしていく。 「明日は市議会議員の前山田先生主催のバーベキューに夫婦で行くぞ」 「えっ? あなた…… 明日は俊夫の三者面談がある日で……」  ガシャン。アイツはテーブルをひっくり返した。  アイツは怯える母の髪の毛をつかみ、床に引きずり倒す。 「あん? お前俺に意見しようってんじゃねえだろうな? 前山田先生はな、引退後俺を後釜にって言ってくださってるんだ。俺の未来の市議会議員と、無くてもいいコイツの高校進学と、どっちが大事か考えてみろ!」  アイツは倒れた母の耳元に口を近づけて続けた。 「なぁ、離婚したくなったか? 俺はいいんだぜ。だがな、この家を建てた借金は、この土地を持っていたお前の名義だ。俺の会社はその賃貸契約者ってことで、法的には銀行差し押さえになっても出ていく義理はねえ。お前は住むところもなくて、親子ふたりでたいそうな借金を返せるんですかね〜?」  アイツは薄ら笑いを浮かべる。 「お父さん。面談は僕でひとりでなんとかするよ。母さんを責めないでくれる?」   「てめぇ、偉そうな口叩くじゃねえか?」  計算通り、母への暴力が僕に向かった。アイツは僕のお腹に下手から拳を振るう。  中学生になって、アイツの暴力に対抗するため筋肉を(きた)えていた僕は、腹筋に力を入れるが、わざと痛い振りをして床に倒れた。  気をよくしたアイツは上機嫌で飲みに出ていった。 「ごめんね俊夫、ごめんね」  母はこの数年で口癖になった言葉を繰り返した。  僕はアイツに対して、ドス黒い憎悪を育てる。  アイツをどうしてやろう?  ただ殺すだけではこの肥大した憎悪は満足しないし、あんな奴のおかげで殺人犯として一生後ろ指を差されるのも(しゃく)に触る。  もっとアイツにふさわしい、全てに絶望する苦しみを味あわせたい。  
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