あの日の小説の続きは

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次の瞬間、私は別世界に立っていた。 色んな地域の特色をごちゃ混ぜにしたような世界だった。東南アジアの屋台風の店が立ち並んでいるのに、街灯は西ヨーロッパ風である。かと思えば、笛と太鼓の音色が耳に心地よく、すれ違う人々は和装で、日本の夏祭りを思わせる。日が落ち、提灯のあかりで辺りが照らされていて、どこか幻想的だった。 その上、街を行き交う人たちは「ヒト」ではなかった。 屋台の店主には目がひとつしかなかったし、店先で何やら食べているおじさんの肌は緑色をしていた。金魚掬いをしている少女には幾つにも分かれた尻尾がついていたし、アコーディオンを演奏する青年の髪はふしぎな色で輝いていた。 狐につままれたような気分で、その光景を眺めていると、目の前を小さな子どもたちが駆け抜けていった。子どもたちの目や口はぽっかりと穴が開いたようになっていて、まるでハニワのようだった。 まったくの未知の世界だった。それなのに、なぜか懐かしい。 夢でも見ているのかもしれない。 ふわふわとした気持ちで、私は街を歩いてみることにした。 どこも光が当たっているかのように、街は賑やかだった。屋台も充実していて、色とりどりのお菓子もあるし、焼きそばや串カツまで売っている。 ふと、覚えのある匂いに足を止めると、店主から声をかけられた。 「へい、らっしゃい!」 タオルを頭に巻いた半魚人が、にこにことしていた。 「具沢山のスープはいかがかな? ほっぺが落ちる自信作。今なら一杯、250円だよ」 「じゃあ、一杯ください」 「まいど!」 店主から手渡された器の中には、ジャガイモや人参、ソーセージが入っていた。湯気がたち、いかにも美味しそうだった。 いただきます、とスープに口をつけて、びっくりした。実家のポトフの味だった。 コンビニ弁当ばかり食べていたせいだろうか、やけに美味しさが染みる。 「美味しいです、これ」 「でしょ」 感想を伝えると、店主は嬉しそうに頷いた。
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