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そうです。ここはこの国自慢の国立図書館。今日発売された最新刊から、五百年以上も前の古い本まで、難しい理論書から胸踊るファンタジー、いにしえの王侯貴族や芸術家の手紙から、綺麗にタイピングされた今朝の新聞まで、広大な宮殿の地下から最上階まで、ありとあらゆる書き物が詰まっています。
今はもう昔、文芸を愛した国王が、手に届く限りの世界中の良書珍書を探し求め、宮殿の中に書庫を作ったのがその始まり。今ではもう、国を支配する王様はいませんが、その文芸愛と知識欲は民に愛され、受け継がれ、人々が持ち寄る本は今日も明日もと増すいっぽう。集まる本は書庫から溢れ、今日も一部屋、また一部屋、王宮内を埋めたのです。
そしてあるとき、国のみんなが決めました。そうだ、ここを図書館にと。
おやおや、お話に夢中になっていたら、さっき入ってきたお兄さん、席がなかったからでしょうか。くるりと踵を返してしまいました。そのままアトリウムを突っ切って、左の翼へ行くじゃないですか。
これまた古くて重そうな木の扉が押し開かれたその先は、ランプが明るく静かな部屋です。大きく取られた窓は右翼と同じ。でもこちらの部屋は、もっと広々としています。椅子もいろいろ、ソファだったり、丸椅子だったり。机もそれぞれ、低かったり、高かったり。それでもやっぱり同じなのは、部屋と壁際に整列した本棚。中には大きさも厚さも、種類も色々な本が並んでいます。
ああ、なるほど。こちらの部屋には、くつろいだ様子で本を開いている人が多いこと。
何の気なしに本棚を眺める男の子、一つの本に腕を伸ばし、表紙を見ています。気に入ったのかしら。開いてにっこり笑います。
腰に手を当てて立ち上がる御老人。新聞を丁寧にたたみ、本棚の方へ。眼鏡を上げて、皆が触って黄ばんだ背表紙を順繰りに辿っていると思ったら、急に瞳を丸くしました。皺の刻まれた手で、丁寧に引き出した本を、目を細めて、愛おしそうに眺めています。
どの人も、本棚の間を行ったり来たり、どれを手に取ろうか迷いながら、目星の本を探しながら、ゆっくり足を進めていきます。でもね、間も無くその足が止まるのです。その人自身も気づいていない、心の奥の奥にある、大事な気持ちに寄り添う本へ、不思議と目が引きつけられて、すうっと手が伸びるのです。
どうしてこんな、出会いがあるのでしょう。
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