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ポーン……
時計が静かに鳴り響きます。柔らかな音が高い天井にぶつかり、はね返り、くわんと部屋に広がって、下を向いていた人々の顔が、おや、と上がります。
もうすぐ閉館ですよ。慌ててノートをとる手の動きを早める人、のっそり立ち上がって本棚へ本を返しにいく人、貸出手続きに小走りになる人、そうそう、皆さん、また明日。
だれしもこの図書館に訪れた人は、来た時とは違う気持ちで宮殿の門をくぐるのです。さっきの少年、家に帰って読むのが待ちきれないかしら。元気よく駆け出して行きます。御老人は本の背表紙を指でなぞりながら。眼鏡をかけたお姉さんは、疲れた目をこすりながらも、どこか達成感に満ちた顔で。みんな色んな足取りで、石畳を踏んでいきます。
宮殿の中の図書館員さん達は、散らばった椅子を整え、返却本を本棚へ戻し、忘れ物がないか館内を回っていきます。このお部屋は大丈夫、そう思ったら明かりをぱちん、ぱちん、と消していきます。
そうして全ての部屋の明かりが消え、最後にアトリウムのランプだけが、薄く大理石を照らします。
それじゃあ、明日の開館当番、朝一のお仕事をよろしくね。
最後に残った館員さんが、石造りの正面玄関を開けて、アトリウムの明かりもぱちん。
鈍い音を立てて扉が動き、がしゃんと鍵がかかります。
図書館の中は、もう話し声も足音も聞こえなくなります。頼りになるのはぼんやり光る、非常灯だけ。
……さて、本当でしょうか。
ちょっと耳を澄ましてみましょうか。
……とととっ……
おやおや。
……ふふふっ……
あらあら。
ぽっと、小さい明かりが見えましたよ。
図書館が眠るのは、まだまだ先みたいです。
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