お城の図書館

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 ととととっ。つつー。  ふわっ。ぽっぽっ。  本棚の奥、机の脇、コピー機のうしろ、壁の脇、部屋の隅々、実に色々なところから、小さな小さな子供が飛び出してきます。大人の男の人の手のひらを広げたくらいの大きさでしょうか。丸窓から入る銀色の月の光にうっすら照らされた大理石の広間へ、次から次へと集まってきます。  円を作って何やらお互い目を交わし、うなずきあってまた走り出す。小さい足が踏んだ床には、虹色の光の粒が残ります。  小さな子供たちは、白い衣を揺らしながら、一目散に本棚へ。丸い目はきらきら輝いて、本と本の間を走っていきます。  そう、彼らはここがまだ王宮の書庫だった頃からずっと、この図書館に住んでいる妖精たち。本が何より大好きで、本を愛する人が誰より大好きな、お茶目でちょっと落ち着きのないいたずらっ子たちです。  銀の光がカーテンを透かす閲覧室。部屋の中には彼らが飛び跳ねる虹の粒が本棚のあちこちでまたたいていきます。  何をしてるって? お掃除ですよ! 埃を落とし、誰かが落とした食べかすや鉛筆の芯を払いのけ、本の中に忍び込んだ食いしん坊の虫を追い出します。飛び出している栞があったらきちんとページの間にしまうのも、彼らの大事なお仕事です。そうそう、本の背表紙を棚の端から一センチ、ぴしーっと揃えていくのも忘れずに。  たまにびろうど張りの豪華本の上をごろごろしたり、長い巻物を滑り台にしたりもしますけれど、大丈夫、館員さんは気付きませんよ。なんたってちゃんと片付けますからね。  知らないでしょう、訪ねる人は。彼らがここに住んでいるのを。  当然でしょう、何と言っても、彼らは人には見えないのだから。  でもね、あなたが手に取る本、何でその本に出会えたのか、知っていますか?  ポーン……  あら大変。掃除(と遊び)に夢中になっていたら、もうカーテンの向こうから、ほのかな金色の光が滲み出してきているじゃありませんか。また今日も沢山人が来ますよ。急いで持ち場につかなくちゃ。  アトリウムの下でまた円を作ると、お互い目を交わしてうなずきます。  ポーン……  それ、もうすぐ扉が開いちゃう。四方八方駆け出して、本棚の奥、机の脇、コピー機のうしろ、壁の脇、担当場所へ一目散。おっといけない、衣の裾がはみ出しています。小さな手がさっとつかんで、慌てて影の中へ隠します。どのみち、人には見えませんけどね。  がしゃん、ギギィ、ぱちん。  アトリウムの大理石が、ぱっと明るく照らされます。開館当番の館員さん、あくびをしながら閲覧室の明かりを点けていき、ぐるりと回ってカウンターへ。んん? コピー機の電源、ついてませんよ。うーん、貸出チェックに夢中で気付きませんね。  ぱち、ヴー。  おや、コピー機が動き出しました。これで安心。  ポーン……  さぁ開館です。
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