お城の図書館

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 初めに入ってきたのは昨日の御老人。アトリウムの壁にずらりと並んだ新聞をしげしげと眺めています。あまりに種類が多いので、どれから読んだらいいのやら。ところがまもなく御老人、少しだけラックから飛び出た新聞へ手を伸ばしました。広げてみればなるほど。他より少し字が大きめ。一面記事を確認しながらのったりソファへ座ります。  次に来たのは小さな男の子とお母さん。ああ走らないで。図書館は初めてなのかしら。並んだ本棚を行ったり来たり。手が届くところの本を、出してはしまい、出してはしまい……だって字ばかりでむつかしいのですもの。  棚の端から端まで来てしまって、男の子は残念そうに上を見上げました。そうしたら、綺麗なコスモス色の栞の紐が、ひらりと出ているじゃありませんか。呼ばれたお母さんがちょっと引き出してみると、お花と動物の絵がたくさんの美しい絵本。  男の子は眼を輝かせて、早く早くとお母さんの膝を叩きます。あぁでもあんまり急がないで。勢いよく引き出された本のうしろで、小さな手が慌てて表紙を離しました。良かった、もう少しで落ちちゃうところ。  昨日のカップルも来ました。喧嘩でもしたのでしょうか。お姉さん、ふくれっ面してすたすた。一人で閲覧室に行ってしまいました。  カツカツと本棚の間を進むエナメルの高いヒール。それが突然止まります。そしてさっと向きを変え、小走りに出てきたその手には、新品の詩集が一冊。二人が大好きな詩人の新刊。お姉さんの唇が微笑みの形を作ります。  アトリウムに消えていったお姉さんの後ろ姿を、本棚の端からそっと見守る小さな白い服。仲直り出来るといいですね。  もう、分かりましたか?  昨日も今日も、何の気なしに、偶然素敵な本に出会ったと思いがちでしょう。  いえいえ、なかなか、これという本を探すのって骨が折れるしむつかしいのです。  でもこの図書館なら大丈夫。訪れる人は失敗しないのです。ぴったりの本が見つかるよう、本のうしろや間に立って、小さな手がお手伝いしていますから。  古い本も新しい本も、どの本がどこにあるのか、しっかり知っていますから。その内容も、絵と図のページも、表紙のさわり心地も、栞の色も。
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