お城の図書館

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 開いたページ。綺麗に揃った五線から外れた、右上の隅。手書きのいびつな五線に並ぶ、ほんの数小節の旋律。  ささやくような歌声が空気の中で震えます。  なんて、なんて澄んだ音色。  女の人は初めて腰を下ろし、眼をつむって歌います。確かめるようにゆっくりと。  なんだ、心配なかったね。  ちゃんとここにはありました。かけがえのない、大事な大事な出会いは、もう本の中にあったのです。妖精の助けも必要なく、ずっとずっと、この図書館で女の人を待っていたのです。  嬉しそうに幸せそうに、何度も旋律が繰り返されます。微笑み歌う女の人に、妖精がしてあげることがあるでしょうか。  あっそうだ。  ふわりとランプを蹴ると、壁時計へ飛び移りました。銀製の針が、閉館まであと四十分と指しています。  ちょっと、針を拝借。  小さな身体には少し重い、長い方の針を逆回し。これで時計の鐘も鳴りません。ほんの少しだけでも長く楽譜と向き合えるでしょう。  天井に射す光は、五百年前と同じ。フレスコ画の雲を照らし、天使が微笑みかけます。  高く、細く、繰り返される旋律は、誰が思いついたのか。楽譜にぱっと書き留められ、何年も何年もこの王宮で鳴り続けてきました。  いつしか書庫に眠ったその調べ。時を超えて出会うべき人と出会ったとき、それは再び優しく空気をふるわし柔らかに壁にこだまします。  その静かなひとときを守るのも、妖精たちの大事な大事な仕事のひとつ。  ここは王宮の図書館。むかしむかしから、何人も、何万人もの人たちが、数え切れない出会いを重ねた図書館です。妖精達はその出会いを、漏らさず全部、見てきました。  今日も出会いがありました。それは妖精達に伝えられ、次の出会いに繋がるでしょう。  もしかしたら今度は、あなたの番かもしれませんよ。
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