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お城の図書館
昔は城壁に囲まれ、小さいながらも豊かな文化が栄えた都市。
街の中央には、高い尖塔を持つ寺院。その周りを囲む広間から放射線状に伸びる石畳の道。小さな路地には何百年も前の趣を残した館が立ち、今もそこに人々が住んでいます。
そんな時間の感覚を忘れそうな、穏やかで静かなこの都市には、街の人も、街の外の人も、国の中の人も、国の外の人も訪れる、とある場所がありました。
寺院の入り口から大きな通りをまっすぐ進んで石造りの門をくぐると、円形の広場の向こう側に、左右に広々と伸びた翼を持つ、威厳ある宮殿が出迎えます。居並ぶ聖人君主の彫像は、歴史をたたえたさび付きも見せますが、窓枠や壁に凝らされた装飾細工は、時を超えても訪れる人のため息を誘う、そんな美しい宮殿です。
さあ、中へ入ってごらんなさい。
頭の上のアーチが陰を落とす、少し暗い正面玄関をくぐると、中は首を傾け見上げるほど、高い天井のアトリウム。ソファや椅子や低い机がゆったり間をあけて置かれ、壁際には今日と昨日の新聞がずらり。若い人から御老人まで、思い思いに過ごしています。
サンドイッチをほおばりおしゃべりする若いカップル、コーヒーの湯気で眼鏡を曇らせながら新聞を片手にソファでくつろぐ御老人。大理石の柱で囲まれた中庭の見える空間で、ささやきながら憩う人々。
あら、一人のお兄さんが立ち上がりました。横の部屋、右の翼の方へ行きますね。片手に分厚い本が見えますよ。
古くて重そうな木の扉を押し開き、お兄さんが入ったその先の部屋は、蛍光灯が明るく静かです。大きく取られた窓から外には、王宮の美しい庭園が広がっています。
ちょっと待って、でもそれよりも見てください、その反対側と奥の壁! 隙間なく並んだ本棚、部屋の中にも整列した本棚、本棚、本棚! そして中にぎっしりと詰まった本、本、本! 事典でしょうか。背表紙の太さがハガキほどもあります。
窓側には、これまた本棚と揃って並んだ机が四列。どの机も六人がけ。今日はどの席も埋まっています。顔より大きい本を開いて見入る眼鏡のお姉さん、小型の辞書を引き引き、隣の本との間で顔を行ったり来たりさせる御婦人、あら、ノートを開いたまま、突っ伏してしまっている学生さんもいますね。
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