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幸せの転生
「この先が転生の間だよ」
金髪に緑目、背中には白い羽根を生やした天使のグランツは、優しく語りかけてきた。
明莉(あかり)は目の前にある大きな扉をじっと見つめる。
「ここを潜れば、私は生まれ変わるんだよね?」
「そうだよ、明莉が幸せになることはわたしが保証するよ」
明莉の問いにグランツは明るく答えた。
明莉は15歳でいじめを苦にして自殺をし、その時からずっとグランツが側にいてくれた。グランツは明るくも優しい性格で、常に明莉に優しい言葉をかけてくれた。そのお陰でいじめによって傷ついていた明莉の心は時間をかけて癒されていった。
50年が経過し、人間として転生する話が出てきた。ただし強制ではなかったもののグランツが転生先を見せてくれたが、笑顔溢れる家庭だったので、明莉は人の温かさに触れたくてもう1度生まれ代わってみようと思った。
「どう? 行けそうかな」
グランツは心配そうに訊ねる。明莉に無理をして欲しくないのが伝わってきた。
「行ってみるよ、今まで有難う、グランツ」
明莉は心を込めて、グランツに礼を述べる。
グランツには一言では言い尽くせないほど感謝している。
「明莉の幸せを願うよ」
グランツは言った。
明莉は転生の間の扉をゆっくりと開き、中へと入った。明莉は柔らかな光に包まれ
た。明莉の意識はそこで途絶えた。
「早紀(さき)は本当にピアノが上手ね、素敵な演奏だったわ」
早紀は母親に褒められ嬉しい気持ちになった。
この日はピアノの発表会があり、一生懸命演奏したのだ。
「今日はパパの帰りは遅いから、どこかで食べていきましょう、何食べる?」
「じゃあ、ハンバーグ!」
早紀は張り切って答える。
「分かったわ、今日は頑張ったものね」
「うんっ!」
早紀は元気良く頷いた。
明莉は生前の記憶を忘れ、早紀として転生してから約8年が経過したが、心から幸せだと感じていた。両親は優しく、早紀のことを大事にしてくれている。
学校の友人にも恵まれ、習い事のピアノも楽しくて仕方がない。
早紀は今の幸せを噛み締めつつ、母親と歩くのだった。
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