第一章 たこ焼きや鬼ヶ島

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おかげで店は大赤字だが、それが先代からの経営方針なのだ。 それに赤字はほかの方法で補填しているので問題ない。 「母ちゃんの腰の調子はどうだ?」 たこせんを渡しながら尋ねてみる。 「もうだいぶいいみたい。 無理すんなっていうのにコルセット巻いて仕事に行ったわ」 「そうか」 彼の家は母親と彼、それに妹の三人家族だ。 つい先日、酷いぎっくり腰になって動けなくなっていると聞いていた。 「あんま母ちゃんに無理させんなよ」 「わかってるって」 明るく彼は笑っているが、忙しい母親に代わって家事を請け負っているのをマサは知っていた。 この、十円のたこせんが唯一の息抜きなのも。 「よかったら持ってけ」 手早くパックに詰めたたこ焼きを二つ、袋に入れて彼に差し出す。 「え、いいよ! たこせんだけでもありがたいのに!」 「いいから」 断る彼にさらに袋を差し出した。 「もう焼いてだいぶ経ってるんだ。 捨てるのももったいないしな」 「じゃ、じゃあ。 ありがたく」 促すように軽く揺らした袋を彼が受け取る。 きっと彼はマサの方便に気づいている。 「たまには妹も連れてこい」 「わかった。 マサさん、ありがとー!」 ぶんぶんと勢いよく手を振る彼を笑顔で見送り、正面へと視線を向けた。
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