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いらっしゃいませ。
はい、お間違いありません。
当店はあなたの不要なものを料理としてリサイクルするレストランでございます。
さて、どのようなものを調理いたしましょうか?
はい、はい……たくさんある書物を処分したい?
ええ、可能でございますよ。
ただ、当店にはひとつルールがあります。
安心してください。難しいことではありません。
調理に立ち会っていただき、必ずお客様自身のお口で料理を召し上がっていただくだけでございます。
調理方法やレシピもお伝えしますので、家で作ることもできるようになりますよ。
――ありがとうございます。
本日の料理は『本のミルクレープ』でございます。
準備いたしますね。よいしょ。すみません、ご覧の通りキッチンが狭いもので。
普通のレストランではございませんから。あ、そちらに毒蜘蛛がいるので気をつけてくださいませ。それでは材料を説明いたします。「不必要になった書物」「バター」「生クリーム」「ペンのインク」……はお好みでどうぞ。
それでは調理に入りましょう。まずは本の下ごしらえです。
本棚で眠っていた本も、取り出すと目覚めます。
元気に動き出すことがあるので、扱いには気をつけましょう。
まず、本の装丁……カバーを剥いでいきます。帯の処理も忘れないでくださいね。
カバーは本の皮みたいなものですから、捨ててもらってもかまいませんが……本日は残しておいた方が良さそうですね。
本の帯には栄養が詰まっています。シュレッダーでみじん切りにして生クリームに混ぜ込むのがおすすめです。古書店のような香りがしますし、キャッチコピーや煽り文がいいスパイスになるんです。食欲をそそりますよ。
次に、本の中身を切っていきます。
断面がキレイになるようにカットすると、仕上がりが美しくなります。
包丁がなければ、カッターでも大丈夫です。
家に断裁機がある方は、そちらを使用してもいいでしょう。
もしくは、ギロチンでもいいです。最悪、手で破ってもかまいません。もう、とりあえず切ってください。早く。お客様も手伝ってください。これ大変なんです。
……よし。カットが終われば、1枚ずつページを剥がしていきます。
次にバターを塗って、フライパンで焼いていきましょう。
火は弱火で。文字や写真が焦げないように、注意してくださいね。
まるで思い出のようなセピア色になったら、OKです。
全て焼けたら、しばらく冷ましてください。
材料がぞっとするようなホラー小説ですと、すぐに冷えて時短になりますよ。
冷めましたら、ページとページの間に生クリームをまんべんなく塗り、層になるように重ねていきます。材料になる本で味わいが変わりますので、重ね方や種類も色々試してみてくださいね。
あ、そうそう。甘い甘ーい恋愛小説が多いときは、生クリームの量は減らした方がいいかもしれません。色んな意味で胸やけしますから。若い子は平気らしいですけどね。
さて、これで盛り付けたら完成です。
どうです?
綺麗でしょう?
これはあなたが積み重ねてきた、読書を料理したメニューなのです。
きっと懐かしい味がします。ぜひ、ご賞味ください。
甘すぎるようでしたら、ペンのインクをお好みでかけてくださいね。
……え?
こんな味に覚えはない?
ああ、そうでしたか。材料に選ばれたのは、ご両親の本でしたか。
実家から持ってこられたのですね。
あなたのお母様やお父様が愛した書物の味はいかがでしょうか。
はぁ、そうですか。
味わい深く、切ない味? 両親の気持ちをもっと知りたい、と。
この本が読みたくなってしまったのですか?
困りましたね。調理してしまったので、もう本は読めません。
なんて、少し意地悪を言ってしまいました。ごめんなさい。
本の皮、残しておいて正解でしたね。
このような場面で使用する方も多いので。
今は便利な時代になりました。
タイトルと著者さえわかれば、どうにでもなるでしょう。
実家のお片付けも大変ですね。
私でよろしければ、また色々なレシピをお教えします。
使わなくなった食器、手紙、ぬいぐるみまで、なんでも料理いたします。
本日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。
……とても読書家とは思えない本の扱い方だったので、本人のものじゃないと思いました。予想が当たりましたね。きっと、これから読書家になるのでしょう。運命の一冊、ご満足いただけたようで何よりでした。
本日はこれにて、クローズとさせていただきます。
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