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ああ、戻りたく無い。
凄く嫌なはずなのに、従わざるを得なくさせるあの絶対的なオーラと威圧感。
それにあの目。
逃げたい、捉われたくない、そう思っているはずのあたしを雁字搦めにして最も簡単に何処へも行けなくする。
はあっと重いため息を吐き出して、お風呂から上がる。
寝る支度を整えたあたしが戻ると、佑は誰かと通話をしているようだった。
ちらり、あたしへと視線を寄越して「ああ、その辺りはお前に任せる。明日の朝迎えに来い。」
そう言って通話を終了させた。
「…あ、お風呂、入るよね?」
あたしへと近づいてくる佑に向かって堪らず声をかける。
そんなあたしへと手を伸ばし、スルリ、お風呂上がりでさらさらになったロングヘアに触れ、そのまま手櫛を通した。
「綺麗だな。」
「…へっ?」
「髪、綺麗だって言ってる。椿によく似合ってる。」
髪へと落としていた視線を上げてあたしを見つめる。その表情は柔らかく、とても穏やかだ。
どきり、心臓が音を鳴らして鼓動をはやめた。
「っ、あ、ありがとう…。あの、お風呂は?」
なんて言葉を返していいのか分からないし、この雰囲気に耐えられないあたしは、口先だけのお礼を述べると話を逸らすように佑へ問いかけた。
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