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「ああ、失礼。つい嬉しくなってしまいました」
「うれ、しい?」
ご主人様がぼくの体を離し、ばつの悪そうな表情をしてみせた。
「嬉しいですよ。私のことを思ってこそのことですから」
見つめられて、ドキドキしちゃう。
ご主人様はこれでもかってくらいお金のかかった、そんじょそこらにはいないイケメン。
27歳の若さで世界的な企業の社長。だからちょっと威圧感があって、初めての人は怖いって思っちゃうかもしれない。俺様オーラが半端ないしね。
でも本当はものすごく笑い上戸で天然なところもある、ちょっとかわいい人なんだ。
そんな人から抱きしめられたり見つめられたりすると、男のぼくでもドキドキしちゃうよ。
でも今は、ご主人様も何だか恥ずかしそうで変な気分だ。
「でも全然入らなくて。ご主人様のスーツケースに入れてもいいですか?」
「入れるのは構わないけど‥‥‥持っていかなくても大丈夫ですよ」
「この枕でなくても寝られますか?」
ご主人様がクスリと微笑みながらうなずく。
「ぼくのエスプレッソがなくても起きられますか?」
ご主人様が我慢できないという感じで、体をくの字に曲げて笑い出す。ほらね。すごい笑い上戸。そんなに笑わなくてもいいじゃん!
「ええ、大丈夫です。咲良くんが一緒にいるだけでぐっすり眠れるし、さわやかに起きられますよ」
「ええええええ?! マジで?!」
「ええ。マジです」
ぼく、夕飯に何か変なものでも出しただろうか? ご主人様の様子がおかしいってば!
「さ、そろそろ寝てください。明日は早いですよ。寝坊したら置いていきます」
「それは困ります! 荷物は明日の朝やるとして、もう寝ますね」
ご主人様は明日からタイのプーケットで仕事があるんだけど、夏休みだからぼくも一緒に連れて行ってもらえることになったんだ。海外旅行は初めてだから楽しみで仕方ない。半分は仕事なんだけどね。
今回はボディーガードの仕事とは直接関係ないみたいで、小野さんと中尾さんはお留守番。小野さんから『社長をよろしくお願いします』って頼まれちゃったから頑張らなきゃ!
■---■---■
翌朝目覚めると、ぼくのスーツケースは見事にパッキングされ、ご主人様のスーツケースと一緒にエントランスに並んでいた。
さすがぼくのご主人様! お見事! ‥‥‥って、ぼくってホントにハウスキーパー?!
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