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話は過去に戻る。そう、オードリーとオーガスタが出会った頃まで。
オードリーとオーガスタがエリュティア王国の貧民街で運命的な出会いを果たしていたほぼ同時期に、ニェビェスキ王国の片田舎でも運命は動きだしていたのだ。
両親を早くに亡くし、牛乳配達をして生計を立てる少年・ジェフ。ジェフは聡明だが日々生きることが精一杯で学び舎にも行けなかった。
そんな彼が配達から戻ると、家の前に豪勢な馬車がとまっていた。そしてそこから降りてきたのは随分と身なりのいい自分だった。
いや、自分にそっくりな少年だ。その少年はわっと泣き出してジェフにしがみつくと、鼻水をすすりながら言う。
「いやだいやだ! け、結婚なんてしたくない!! 不遜で傲慢、わがまま王女と名高いオーガスタなんてごめんだ! ボ、ボクは洗濯係のリンジーと一緒になりたい……。結婚するなら不甲斐ないボクを唯一認めてくれた優しいリンジーとがいい!!」
少年の横にはリンジーと思われるそばかすの少女が立っていて、彼女ははらはらと涙を溢す。
ジェフは素早く思考を巡らせる。身なりのいい少年の胸で光るブローチには王家の紋章、わがままや王女オーガスタとはエリュティア王国の姫のこと、その姫との政略結婚、洗濯係のリンジーとこの少年は恋人同士、少年と瓜二つな自分……。聡いジェフは全てを察する。
「お、お願いだ、きみ! どうか、どうか、その、ええと──」
言い淀む少年にジェフはにこりと微笑みかけて片膝をつく。
「Yes, Your Highness.どうぞ全てぼくにお任せて下さいませ、殿下の望みを叶えましょう」
深々と頭を下げながら、ニヤリと口角を上げる。ジェフはようやく自分にツキが回ってきたのだと思うと嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
こうしてジェフは王子・ジェフリー・ニェビェスキのニセモノとして生きることを決める。そしていつかホンモノの王になってやると野心を抱いて……。
《終》
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